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毎日12編の短編を、2時間おきにお届けします

ショートショート

湯けむりは、配当を知っていた

俺の仕事は、板前場の隅で皿を洗うことだ。仕込みの包丁の音、出汁の匂い、湯上がりの客の笑い声が壁を隔てて漏れてくる。この旅館は百二十年続いたが、三年前、大手の観光資本に買われた。看板はそのまま、…

2026.09.30 05:07 配信
ショートショート

誰にも再生されなかった歌の書庫

書庫の奥で、四十年間一度も貸出記録のない本が、夜になると微かに鳴る。それは音楽ではなかった。音楽になる前の、誰の耳にも届かなかった振動だった。

2026.09.30 03:10 配信
ショートショート

ノイズを拾うコンビニの自動ドア

深夜のコンビニの自動ドアが開閉する音は、いつも一定のリズムを刻んでいる。だが、今日のドアは、まるでためらいがちに、音を立てた。俺は、その不協和音の中に、何か新しい周波数を聞き取った気がした。

2026.09.29 21:00 配信
ショートショート

蜜蝋とクロームの残響

裏山の養蜂場は、今日も規則正しい沈黙に包まれていた。蜂蜜の甘い匂いと、機械油が混ざったような無機質な香りが混ざり合い、空気を重くする。彼女は、その矛盾した香りに鼻を鳴らした。

2026.09.29 17:06 配信
ショートショート

深海と響くセカイの残響

深夜の水族館。メインタンクに差し込む月明かりは、人工的な光沢を帯びていた。私は、展示された深海魚たちの無機質な群れを、ただ眺めているだけだった。

2026.09.29 15:05 配信
ショートショート

台風は嘘を運んでくる

山頂の気象観測所に着任して四年になる。わたしの仕事は、一日二回、ゴム風船に無線機を括りつけて空に放ち、山の上の空気を、下の街へ伝えることだ。来春でこの観測所は閉鎖になる。衛星のほうが、人間より…

2026.09.29 13:12 配信
ショートショート

水平線がふたつに割れる冬

海の家のシャッターを下ろす仕事は、十一月の終わりに一度だけある。彼は毎年、その日に水平線を見る。今年は、水平線が途中からふたつに分かれていた。

2026.09.29 11:06 配信
ショートショート

地下の桜に水をやる

私は地下鉄の車両基地で、廃止が決まった線の車両を、書類の順番に灯りごと消していく。同僚は私のことを「消灯係」と呼んでいる。ある終電後、解体待ちの旧型車両の台車の下で、日光を知らない桜の花を見つ…

2026.09.29 09:06 配信
ショートショート

観覧車は静かに潮を見る

閉園まであと十日になった日、彼は駐車場のフェンスに新しい看板を取り付けた。『感謝の価格・本日の入場料・一円』。ここの入場料は三十年前からナスダック指数と連動していた。市場が跳ね上がれば入場料は…

2026.09.29 07:07 配信
ショートショート

星の点検は人類を待たない

深夜二時、天文台のドームは潮騒に似た低い音をたてていた。彼は震度のないゆれを、望遠鏡より先に受信していた。モニタにはAIが選んだ観測対象が並び、どれにも人名が付いていた。

2026.09.29 05:06 配信

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