アキラは毎日、仕事帰りに商店街を通る。
夕暮れ時、肉屋からは揚げ物の匂い、八百屋からは瑞々しい野菜の香りが漂ってくる。
ある日のことだった。
いつもの活気ある商店街が、一瞬、がらりと別の風景に切り替わった。
肉屋がシャッターを閉ざした廃墟になり、八百屋がガラス張りの無機質な薬局に変わる。
通行人も、見慣れない顔ぶれで、皆どこか疲れた表情をしていた。
アキラは目を瞬かせた。
すると、元の商店街に戻っていた。
「見間違いか」
そう思い、アキラは首を振った。
だが、その現象は翌日も、そのまた翌日も続いた。
数秒の間、あるいは一瞬だけ、商店街は別の姿を見せる。
アキラはそれを注意深く観察し始めた。
花屋のミキ夫人の店が、あるときは煌びやかな高級ブティックに、またあるときは寂れた小さな居酒屋に変わるのを見た。
そのブティックの前に立つミキ夫人は、傲慢な笑みを浮かべ、居酒屋のミキ夫人は、疲れ果てた顔でカウンターに伏せていた。
魚屋のタナカ氏の店が、切り替わりの一瞬、廃墟になっているのを目撃したこともあった。
そこにはタナカ氏の姿はなかった。
アキラはそれが、人々の「選択の末の運命」を映し出しているのではないかと考えるようになった。
未来の可能性が、この商店街の「切り替わり」という形で現れているのだと。
アキラは、彼らの運命にどう関わるべきか、あるいは関わるべきではないのか、静かに葛藤した。
ミキ夫人に「ブティックの道は危険です」と忠告すべきか?
タナカ氏に「魚屋を続けた方がいい」と進言すべきか?
しかし、何が正解なのか、アキラには分からなかった。
ある夕暮れ時、アキラは自分の未来を見る覚悟を決めた。
いつものように商店街を歩いていると、再び風景が切り替わった。
今度は、見慣れないアキラ自身の姿があった。
彼は古い看板のクリーニング店を畳み、ひどく老いぼれた表情で店の前に立っていた。
その隣には誰もいない。
そして、その廃れた商店街の道を、若々しい男女が楽しそうに歩いていく。
アキラはその女性に見覚えがあった。
それは、彼がこれから出会うはずの、運命の相手と信じていた女性だった。
だが、彼女は隣の男と手を取り合っていた。
風景が元に戻ったとき、アキラは深い疲労感に襲われた。
そして、その日以降、アキラは商店街の切り替わりに興味を示さなくなった。
結局、見える未来を変えることも、変えないでいることも、アキラにはできなかったのだ。
彼の見たものは、単なる予測に過ぎず、運命は、すでに彼の手の届かないところで決定されていたのだった。
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