2025-08

毎日ショートショート

量子箱の寓話

アキラ氏とベータ氏は、宇宙船の計器室を思わせる厳重なクリーンルームにいた。彼らの仕事は、未知の素粒子反応を観測すること。無菌の空間には、生命の息吹さえ許されないかのような静寂が満ちていた。今日の作業もいつもと同じ、精密な手順が繰り返される。...
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最後の共鳴

ヨシダ博士は、埃だらけの実験室で古い装置の電源を切った。壁には「閉鎖まであと3日」の貼り紙。隣でヤマモト助手が、最後の段ボール箱をガムテープで閉じていた。「結局、何一つ完成しなかったな」ヨシダが呟いた。ヤマモトは頷いた。二人の研究室は、テレ...
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希望の瞬間移動

広大なディスプレイが壁一面を埋め尽くす。気象制御センターは今日も朝からフル稼働だった。「太平洋上で熱帯低気圧が発生。風速を20メートルまで落とせ!」主任のヤマモトが叫ぶ。彼の顔には、慢性的な疲労が刻まれている。地球上のあらゆる気象は、このセ...
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色の判別

タナカ氏は、毎朝同じ時間に市役所の門をくぐった。鉄筋コンクリートの建物は、光沢のある白い壁と、磨き上げられたステンレスのドアが印象的だった。受付にはいつも、笑顔を絶やさない若い女性職員が立っている。「おはようございます!」その声は、希望に満...
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永遠の管理人たち

キョウコとタナカは、今日も納骨堂の番をしていた。ここは地下深く、窓からは常に薄暗い夕焼けが覗く。あるいは、そう見えるだけなのかもしれない。一日が始まるたびに、彼らは白い作業着に身を包んだ。言葉は少なかった。互いに何を話すべきか、もう何年も前...
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永遠の来院者

夕暮れが迫る中。ヒロシ、ケンタ、アキラ、ミユキの四人は、廃病院の前に立っていた。錆びた鉄扉が風に揺れ、不気味な音を立てる。「おい、本当にここに入るのか?」ケンタが震える声で言った。「ビビってんのか、ケンタ。今さら引き返せるかよ。」ヒロシが懐...
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言葉の効能

「言の葉」は、駅の裏手にひっそりと佇む喫茶店だった。古びた木の扉を開けると、コーヒーの香りと、穏やかなざわめきが客を出迎える。ヤマモト氏は、いつもの窓際の席に腰を下ろした。マスターは無口で、ただ黙々と豆を挽き、湯を注ぐ。店内の客は皆、思い思...
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冷気の真実

アサノ夫人は、いつも通り午前6時には目を覚ました。リビングの窓を開け、ベランダへ出る。早朝の冷気が肌を刺す。しかし、その冷たさが逆に心地よかった。洗濯物を干し終え、コーヒーを淹れようとすると、夫のケンイチ氏がベランダに現れた。いつもの寝ぼけ...
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屋根裏の客

F氏は、亡くなった祖母の家の遺品整理を頼まれていた。中でも億劫なのは、屋根裏部屋だ。そこは長年、開かずの間同然だった。梯子を上り、重い蓋を開ける。途端に、埃と黴の匂いが鼻を突いた。かすかな月明かりが、室内の輪郭をぼんやりと浮かび上がらせてい...
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夕焼けの影占い

タカシは溜息をついた。会社を出ると、いつもより夕日が赤く、空には複雑な色模様が描かれていた。今日一日も、予定通りにはいかないことばかりだった。ふと、普段通らない路地裏に足を踏み入れた。古びた木造の建物の壁に、色褪せた看板がかけられている。「...