K氏は午前7時、反物質発電所「コスモス」のゲートをくぐった。
夜の間に降りた朝露が、無機質な金属構造物を濡らしていた。
内部は規則的な低音で満ちていた。
今日もまた、世界を支える膨大なエネルギーが生み出されている。
制御室に入ると、助手Aが硬い表情でモニタを見つめていた。
「Kさん、冷却システムの物理パラメーターが異常です。」
Aの声はかすかに震えていた。
K氏は無言でモニタに目を凝らした。
確かに、本来安定しているはずのプラズマ冷却槽の数値が、細かく、しかし不規則に乱高下している。
これは単なる機械の故障ではない。
「プロトコルZを起動しろ。」
K氏は簡潔に指示した。
プロトコルZは、過去に一度も発動されたことのない緊急停止手順だった。
Aがキーボードを叩き始めると、突然、制御室の壁の一部が半透明になった。
壁の向こうに、本来あるはずのない青い空と、見慣れない巨大な塔が見えた。
「な、なんですか、これ…」
Aが慄然とした声を出した。
K氏も驚きを隠せない。
風景は瞬く間に元の壁に戻ったが、彼の心には奇妙な疑念が湧いた。
その時、メインモニタが激しく点滅し始めた。
表示された警告文は、「REALITY_INTEGRITY_COMPROMISED」だった。
廊下からパチパチという奇妙な音が聞こえる。
K氏が振り返ると、通路の床が部分的にピクセル状に崩れ落ち、その下に闇が見えた。
仮想と現実が融合し始めたのだ。
「システム、メインブレイク!」
Aが叫んだ。
K氏は冷静さを保ち、緊急停止ボタンに手を伸ばした。
この異常は、プラント全体、いや、世界全体に及ぶかもしれない。
彼の指が停止ボタンに触れた、その瞬間。
視界が白い光に包まれた。
次にK氏が目を開けたのは、見慣れた寝室のベッドの中だった。
目覚まし時計のアラームがけたたましく鳴り響いている。
「もう、起きてよ。またあの夢を見てたの?」
隣で妻が微笑みながら、彼の頬をつついた。
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