2025-09

毎日ショートショート

時の巡り店

ヨシダは、近頃奇妙な夢を見ていた。夜ごと、古びた占い師の店が脳裏に現れる。老人が一人、いつも同じ言葉を告げた。「あなたは、既に決断を下しています。」その夢の店が、ある日、彼の日常に現れた。会社の帰り道、裏通りに「永遠の兆し」という店が佇む。...
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記憶温度図書館

夕暮れ時。ナカムラ氏はいつものように、街外れの古い図書館へと向かった。レンガ造りの外壁は蔦に覆われ、木製のドアを開けると、古書の匂いと、しんとした静寂が迎える。彼のお気に入りの席は、窓際の文学コーナーの一番奥だ。今日もそこに腰を下ろし、慣れ...
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熱と知性の交差点

昼下がりのロボット工場。メタリックな熱気が充満していた。作業員たちは、額に汗を浮かべながら、組み立てラインを監視する。オートメーション化された工程だが、最終調整には人間の目が必要だった。主任のBは、無駄のない動きで歩き回る。彼にとっては、す...
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記録の井戸

朝霧が立ち込める中、ヤマモト氏はタナカ氏を伴い、町の外れへと向かった。目的は、古びた井戸の清掃である。「清流の井戸、と呼ばれてるそうですよ」とタナカ氏が言った。「昔は町の重要な水源だったが、今はもう誰も使わない。だが、水だけは常に澄んでいる...
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重なる扉

夜の静寂が街を包んでいた。しかし、いつもとは違う緊張感が漂っている。ケイはニュースの指示に従い、サトシとともに地下シェルターへ向かった。「万一の事態に備えて、ですね」サトシが冷静に言った。自宅の庭に設けられた最新鋭のシェルターは、数々の非常...
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温かい屋根裏部屋

夕方、A氏は新居の屋根裏部屋の片付けに取り掛かっていた。そこは、他の部屋とは異なり、じんわりと温かい空気に満ちていた。夏の盛りだというのに、妙に落ち着く温度だった。「これだから中古物件は面白い」A氏は独りごちた。古びた段ボールの山を崩してい...
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収集家の最期

K氏は日々の生活に倦んでいた。仕事は単調で、人間関係は希薄。週末も特別な予定はなく、ただ時間だけが過ぎていく。ある午後、散歩中に寂れた路地に迷い込んだ。そこには小さな骨董品店があった。店先には埃をかぶった品々が並び、古びた看板には『思い出堂...
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光の分かれ道

朝焼けの光が、ビルの谷間に滲む。スズキはいつもの駅前へと急ぐ。今日もまた、退屈な一日が始まるのだろう。横断歩道の手前で信号を待つ。向こう側に見える、いつものオフィスビル。その手前の白線が、朝日を浴びてやけにまぶしく光っていた。「ピィー!」青...
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時空の断片

A氏は深夜の書斎でディスプレイに向かっていた。膨大なデータと格闘し、思考の渦に巻き込まれていた。デジタル情報は波のように押し寄せ、彼の意識を飲み込もうとする。キーボードを叩く指が止まった。画面上の文書の一部が、突然逆再生を始めたのだ。打ち込...
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感情の終着点

夕暮れが迫る中、KとLは「終末管理センター」の待合室にいた。窓の外はオレンジ色に染まり、静かな一日が終わろうとしていた。二人は互いの顔を見つめた。そこには、長年の苦労から解放される安堵と、かすかな不安が混じっていた。M氏がドアを開けた。白衣...