昼休み。
高校の音楽室には、いつも通り、古いピアノの音と、アキラのギターの音が響いていた。
ミカは窓辺で楽譜をめくっていた。
「ねえ、アキラ。これ、変じゃない?」
ミカの声に、アキラは指を止めた。
「何が?」
「この楽譜のタイトル、『モーツァルト』が、『モーツァフルト』になってる。」
アキラはミカの隣に寄り、楽譜を覗き込んだ。
確かに、本来ならば無い一文字が加わっていた。
「気のせいだろ。ほら、俺のギターの教則本だって、『ロックの魂』が『ロクの魂』になってる。どうせ古い本だからさ。」
二人は笑い飛ばしたが、数分後、アキラは再び異変に気づいた。
黒板に書かれた「今日の課題」という文字が、いつの間にか「今日のかだい」に変わっていたのだ。
「ひらがなになってる。」ミカは目を凝らした。
「それだけじゃない。この音符、妙に丸みを帯びて見えないか?」
アキラが指差す先、五線譜のドの音符が、確かに漢字の「土」のように見えた。
二人は音楽室を見回した。
壁に貼られたクラシック音楽のポスター。
ベートーベンの名前が、「ベートーベン」から「ベイトーベン」に。
ヴァイオリンのメーカー名が、「ストラディバリウス」から「ストラディバライス」に。
「まさか、これが……」
「文字が、勝手に変わってる?」
二人の名前もまた、変化していた。
アキラの筆箱に書かれた「AKIRA」は「AKARU」に。
ミカの譜面台に貼られたシール、「MIKA」は「MIRAI」に。
規則性はなかった。しかし、その変化は一貫して起こり続けた。
音楽に関する言葉は、特に顕著だった。
「響」が「響き」に、「奏」が「想像」に。
無意味な変化もあれば、新たな意味を帯びるものもあった。
二人は演奏を再開した。
ピアノの旋律とギターの和音が重なり合う。
その間にも、文字は姿を変え続けた。
教室全体が、まるで意思を持ったかのように、言葉の洪水に満たされていく。
やがて、二人が見ていた楽譜の最後のページ。
そこには完璧な和音と共に、ある文字が浮かび上がっていた。
「キミタチノオンガクハ、セカイヲカエル。」
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