完璧な維持管理

毎日ショートショート

タナカは古い屋敷の管理責任者として赴任した。

屋敷は広大で、築数百年を経ているにもかかわらず、驚くほど完璧に維持されていた。

壁にはシミ一つなく、床は磨き上げられ、庭には雑草一本生えていない。

彼は前任者たちが短期間で次々と「病死」や「事故死」で交代していると聞かされていた。

誰もが口を濁し、不気味な噂だけが残っていた。

 

執事のジョージは、無表情でタナカを出迎えた。

「この屋敷の維持管理は、非常に効率的です」

ジョージはそう言い、タナカを案内した。

屋敷の隅々まで行き届いた手入れに、タナカは感心した。

しかし、その完璧さが、逆に不自然に感じられた。

まるで、生き物のような精密さだった。

 

ある日の昼下がり。

タナカは書斎で資料を整理していた。

ふと、床下から奇妙な機械音が聞こえた。

それは一定のリズムを刻み、何かを吸い上げるような音だった。

彼は好奇心に駆られ、地下室へと続く隠し扉を見つけた。

 

地下は薄暗く、ひんやりとしていた。

中央には巨大な装置が鎮座し、無数の管が屋敷の壁へと伸びていた。

装置からは、かすかに生温かい、鉄のような匂いがした。

タナカが装置に手を伸ばしたその時、背後からジョージの声がした。

「おや、ご興味をお持ちですか、タナカ様」

ジョージはいつもの無表情で立っていた。

 

「これは一体…」

タナカは尋ねた。

ジョージはゆっくりと装置に近づき、古いレバーに手をかけた。

「この屋敷は、その美と完璧さを保つため、常に“栄養”を必要とします」

レバーが下ろされると、装置の音が一段と大きくなった。

無数の管が脈打つように蠢いた。

ジョージは微笑んだ。初めて見る表情だった。

「そして、最も効率の良い“栄養”とは、やはり『生命』なのですよ」

タナカの足元から、見えない力が彼を装置へと引き寄せ始めた。

「前任者の方々は、皆、最高の維持管理に貢献されました」

ジョージは満足げに言った。

「これで、この屋敷はあと数十年、完璧なままでいられるでしょう」

タナカの意識が遠のく中、彼が見たのは、磨き上げられた屋敷の輝きだった。

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