未点火のまま夜が明ける
打上げ台の番号札には、二百十四とあった。だが花火は二百十五発、丁寧に横たわっていた。余分な一発だけ、製造番号がない。包装紙に貼られたのは、小さな星のシールで、どこかで見たような、笑いかけている…
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打上げ台の番号札には、二百十四とあった。だが花火は二百十五発、丁寧に横たわっていた。余分な一発だけ、製造番号がない。包装紙に貼られたのは、小さな星のシールで、どこかで見たような、笑いかけている…
閉園が決まったのは、雇用統計の発表と同じ朝だった。テレビの画面で、数字が整然と上がったと告げる声を、俺は観覧車の整備塔の中で聞いていた。その数字は、園内に置かれたパソコンにも同時に表示されてい…
私の仕事は、同じものを何万枚も確かめることだ。今夜刷られているのは、星を背景にした高級時計の冊子で、一冊あたりの値段は私の月給より少し安い。二時を回ったころ、確認用の枚に、刷版にはない星がひと…
毎週日曜の午後、彼は河川敷の模型飛行機クラブの飛行場に来る。木と布とゴムでできた模型機を放てば、風がそれを持ち上げ、数秒だけ、世界がまだ続いているように見えた。メンバーは年々減っていた。
彼は今夜で三度目の灯台の廃灯を経験する。一度目は祖父の仕事場だった岬の灯台で、二度目は観光用に残された偽物の灯台で、三度目がここだ。どこも同じ手順で終わる。白いペンキを塗り直し、ガラスを拭き、…
水族館が閉館して二年になる。彼だけが残った。給料は毎月、誰の承認もなく自動で振り込まれる。これは誰かの忘れものか、それとも、誰かがわざと見て見ぬふりをしている何かなのか。彼は問わないでおくこと…
集落の灯が七つに減った夜、離島診療所の時計だけが三十分遅れていた。受付の私は、未納の診察券を束ねながら、海の外で誰かがこの島を名簿ごと書き換えている気配を感じていた。それは悪意ではなく、配慮の…
彼の仕事は、冬の海の家を、冬であることに気づかせないことだった。シャッターを下ろし、落書きを塗りつぶし、錆の跡を企業指定の青で上塗りする。正確には消すのではなく、隠す。夏が来れば、誰もこの三か…
旅館の板前場には、深夜二時になると、白い湯気と師匠のため息が定位置に戻ってくる。彼は大根の桂剥きをしながら、源泉の温度計が毎晩零点三度ずつ、上に這っていくのを眺めていた。
深夜零時、最後の点検を終えて彼は館内の灯を落とす。水槽の向こう側で群れは眠るふりをしていた。最近、ふりが上手くなりすぎている気がした。断食中のチョウザメが、ゆっくりと時計の針と同じ速度で巡回を…