貸出零の書架で文字は芽吹く
地下三階の書庫には、一度も誰の手に渡らなかった本が、四十万冊眠っている。貸出記録ゼロの書架は、図書館のどこよりも静かで、私はそこが好きだった。誰にも読まれなかった言葉は、本当に死んだままなのだ…
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地下三階の書庫には、一度も誰の手に渡らなかった本が、四十万冊眠っている。貸出記録ゼロの書架は、図書館のどこよりも静かで、私はそこが好きだった。誰にも読まれなかった言葉は、本当に死んだままなのだ…
冬の海の家の番人は、毎朝、寄付金の集計画面を眺めるのが日課だった。閉まったままのシャッターの前で、画面の中の日本は相撲取りのように寄って、寄って、寄り合っている。海は、ただ見ている。
河川敷の模型飛行機クラブの最寄りには、コンビニが四軒、競うように建っている。そのうち最も売り上げのいいチェーンが、私たちの飛行場をスポンサードしてくれている。機体の翼には赤と緑のロゴが刷られ、…
午前二時、貨物駅の信号扱い所で、彼は聴いていた。延長二十六回を超えた野球中継は、もう実況というより誰かの呟きだった。画面のないラジオが告げる。フルカウント。二死満塁。盗塁の気配。そのとき、予定…
打ち上げ場の夜勤は、案外、誰も志願しない。街のへり、高架の高速とメトロの車両基地に挟まれた細長い土地で、夜になると三方向から機械の唸りが聞こえる。足元を通るトンネルは、三時ごろになると換気のた…
深夜のコンビニの自動ドアが開閉する音は、いつも一定のリズムを刻んでいる。だが、今日のドアは、まるでためらいがちに、音を立てた。俺は、その不協和音の中に、何か新しい周波数を聞き取った気がした。
山頂の気象観測所に着任して四年になる。わたしの仕事は、一日二回、ゴム風船に無線機を括りつけて空に放ち、山の上の空気を、下の街へ伝えることだ。来春でこの観測所は閉鎖になる。衛星のほうが、人間より…
深夜の貨物駅には、人間は彼ひとりしかいなかった。週に一度、時刻表にも存在しないホームに、列車がゆっくりと停まる。誰も乗らず、誰も降りない。四十七秒だけ、扉の開いた貨車が闇に佇むのを、彼は見届け…