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霧の時計塔

K氏はいつものように、午前5時に目覚めた。窓の外は深い霧に包まれていた。この街の朝には珍しいことではない。彼はベッドから起き上がり、静かにコーヒーを淹れた。湯気が立ち上るカップを手に、窓辺に立った。正面には、この街のシンボルである古びた時計...
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永遠の観測者

宇宙ステーション「エタニティ」の夜勤は、いつもと変わらない静けさだった。K博士はメインモニターの数値がわずかに揺らいでいることに気づいた。「システムの不調か?」彼は小さくつぶやいた。コーヒーカップが、テーブルの上を滑るように浮き上がり、その...
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時の書架の森

K氏は、またいつものように古びた書店の扉を開けた。夕暮れ時だった。「書架の森」と名付けられたその店は、街の喧騒から隔絶されたようにひっそりと佇んでいた。店内は薄暗く、埃っぽい本の匂いがした。壁の古時計は、いつも不自然なほどゆっくりと時を刻ん...
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時間の欠片

サトウ氏は今日も「時の記憶」を訪れた。定年退職後、彼の日常は穏やかな散歩と、この古びた骨董品店での時間で満たされていた。店の名前の通り、そこには時が忘れ去ったかのような品々が所狭しと並んでいる。埃を被ったオルゴール。色褪せた手帳。欠けた陶器...
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仮想化の夜明け

小惑星ステーションの早朝。ゼータは目覚めた。窓の外には、無数のクレーターが広がる荒涼とした大地が、いつもと変わらぬ姿を見せていた。彼は合成栄養ペーストを一口すすり、起動した端末を眺める。今日も一日、仮想オフィスでの仕事が始まる。この閉鎖的な...
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観客Aの消失

ミスター・Kは、深夜の映画館が、誰にも邪魔されない至福の場所だと信じていた。決まって上映される最後の回。観客はまばらで、ほとんどが老齢の紳士淑女だった。ある晩、いつも通りミスター・Kは劇場を訪れた。時計は午前2時を指していた。チケットカウン...
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冷却された記憶

K氏はフードコートの椅子に座っていた。夕方の喧騒が、遠くの波のように聞こえる。ガラス張りの窓の外では、まだ夏の陽射しがアスファルトを揺らめかせていた。しかし、この屋内は異様に涼しい。いや、涼しいというよりは、冷たい。A子が向かいに座り、スマ...
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マイ・ワン・アンド・オンリー

B氏はコーヒーを一口飲み、ディスプレイに向き合った。新開発の汎用AI「ALEX(アレックス)」の最終調整日だった。ALEXはすでに高度な計算処理や情報分析を完璧にこなしていた。今日のタスクは、広大なアーカイブデータの中から、無作為に選ばれた...
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次元への扉

地下深く、最新鋭の次元観測施設「コスモス03」。朝7時。ベテラン研究員のK氏と、若手研究員のR氏が、人工照明に満たされた通路を歩いていた。「おはようございます、Kさん」「ああ、R君。今日も変わらず、清々しい空気だ」施設内は常に最適な環境に保...
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選択改変室

アキラは数週間、まともに眠れていなかった。夜は長く、天井の染みすら意味を持つ記号に見えた。日中の現実と、夜の幻覚の境が曖昧になっていく。ある晩、いつものように目を開けたまま横たわっていると、壁に微かな光の筋が走った。細い亀裂だった。それは次...