宇宙ステーション「エタニティ」の夜勤は、いつもと変わらない静けさだった。
K博士はメインモニターの数値がわずかに揺らいでいることに気づいた。
「システムの不調か?」
彼は小さくつぶやいた。
コーヒーカップが、テーブルの上を滑るように浮き上がり、そのまま天井に張り付いた。
K博士は目を瞬かせた。
重力定数がおかしい。
いや、まさか。
彼は通信機に手を伸ばし、オペレーターAを呼んだ。
「A、聞こえるか?緊急事態だ。物理定数が――」
通信は途切れ途切れで、彼の声は歪んで聞き取れない。
ステーション内の照明が、虹色の光を放ち始めた。
壁に掛けられた時計の針が、不規則に前後する。
時間が。
K博士は、この異常な現象を記録しようと、端末を操作した。
光速、万有引力定数、プランク定数。
全ての数値が、まるで生き物のように変動している。
彼の指先が、ゆっくりと伸び始めた。
視界の端で、自身の腕が、まるで粘土のように変形していく。
体内の細胞一つ一つが、新しい法則に従い、再構築されていくのを感じた。
意識が薄れていく。
最後の力を振り絞り、K博士は記録を終えた。
そして、データが宇宙空間へ放出された。
後に、別の文明の探査機が、そのデータを発見した。
それは、かつてK博士と呼ばれた生命体の残した記録だった。
しかし、記録を読み解くと、そこには彼らが当たり前だと思っていた物理定数とは全く異なる数値が記されていた。
そして、その観測者が、自らの物理定数を変化させてまで記録したかった「普遍」とは、彼らが住む宇宙の「特殊」な物理定数だったのである。
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