次元への扉

毎日ショートショート

地下深く、最新鋭の次元観測施設「コスモス03」。

朝7時。

ベテラン研究員のK氏と、若手研究員のR氏が、人工照明に満たされた通路を歩いていた。

 

「おはようございます、Kさん」

「ああ、R君。今日も変わらず、清々しい空気だ」

 

施設内は常に最適な環境に保たれている。

静かな動作音と、無数のモニターの点滅だけが、そこに高度な知性が存在することを物語っていた。

 

二人は観測室に入ると、いつものように計器のチェックを始めた。

特に異常はない。

宇宙のあらゆるデータが、安定した数値を表示している。

 

その時、R氏の声が響いた。

「Kさん、次元数計に微弱な変動があります」

 

K氏は眉をひそめた。

「誤作動か? システムは完璧なはずだが」

 

R氏がモニターを拡大し、詳細な解析プログラムを走らせる。

結果は即座に表示された。

 

「四次元の活動を検出……と出ています」

 

K氏の表情に緊張が走った。

彼はモニターに顔を近づけ、表示された数値を凝視する。

 

「まさか……。エラーではないのか?」

 

R氏が別のサブシステムでも確認を行ったが、結果は同じだった。

むしろ、その数値は緩やかに上昇を始めていた。

 

「四次元だけでなく、五次元、六次元と、新たな次元が次々に……」

 

施設内に興奮が広がる。

世界中の科学者たちがその異常な事態に注目し始めた。

人類はついに、未知の高次元の扉を開いたのかもしれない。

 

K氏は高揚した声でR氏に言った。

「R君、これは人類が進化の次の段階へ進む予兆かもしれない」

 

R氏も期待に満ちた顔で、めまぐるしく変化するモニターを見つめていた。

次元が増えることで、空間の概念そのものが変わり、あらゆる物理法則が再定義される可能性があった。

彼らの心は、新しい世界への希望で満たされていた。

 

やがて次元数計は、無限に近い数字を示し、観測は不可能になった。

 

その時、K氏はふと観測室の窓の外を見た。

人工的に作られた、いつもの青い空。

 

「R君、我々はもはや、ただの生命体ではないのかもしれない」

 

「え?」

 

K氏は静かに続けた。

「これは、宇宙が我々を構成する新たな『細胞』として、自身の体を形成し始めた、ということなのだよ」

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