記憶の結晶

毎日ショートショート

アキラは窓辺にいた。

昼の日差しが、埃の舞う室内に線を描く。

寮の部屋は静かだった。

 

ユウジが戻ってきた。

「おや、まだぼんやりしてるのかい?」

彼はそう言って、無造作にベッドに腰を下ろした。

 

「さっき、食堂でキミがさ…」

ユウジの声は滑らかだった。

彼はアキラが今朝体験した出来事を語り始めた。

アキラは聞いていた。

しかし、その出来事には一切の覚えがなかった。

 

「…それで、味噌汁をひっくり返してさ」

ユウジは楽しそうに続けた。

アキラは眉一つ動かさなかった。

だが、奇妙な感覚に襲われた。

ユウジが語る情景が、自身の脳裏に鮮やかに浮かんだのだ。

食堂の配置、味噌汁の匂い、ひっくり返る音。

全てが、まるで自分が体験したかのように明確だった。

 

「ひどく動揺してたね。いつものキミらしくなかった」

ユウジが笑う。

アキラは尋ねた。

「その記憶は、どこから来たんだ?」

 

ユウジは少し考えた。

そして、彼もまた曖昧な表情を浮かべた。

「さあね。誰かが、そこに置いていったものだろう」

日差しは依然として眩しかった。

まるで、何もかもを透過させるかのように。

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