消える旅路

毎日ショートショート

A、B、Cの三人は、週末の小旅行の最終日を迎えていた。

締めくくりとして選んだのは、山間のひっそりとした古い神社である。

鬱蒼とした木々に囲まれ、石段には苔が生していた。

 

まず、入り口の鳥居の前で記念撮影をした。

Aがスマホを構え、「はい、チーズ」。

三人の顔が笑顔で収まっている。

参道をゆっくりと進み、手水舎、拝殿と、要所要所でシャッターを切った。

どの写真にも、三人の姿ははっきりと写っていた。

 

神社の最も奥、古びた石鳥居をくぐった先に、小さな奥の院があった。

ほとんど訪れる者もなく、静寂に包まれている。

「最後はここで締めくくろう」とCが言った。

三人は奥の院の鳥居の前で並んだ。

Aが再びスマホを構え、数枚の写真を撮った。

 

撮り終えたAが、画像を確認する。

「あれ?」

Aの眉間に皺が寄った。

Cが覗き込む。「どうした?」

写真にはAとCだけが写り、真ん中に立っていたはずのBの姿がなかった。

 

「Bがいない」

「まさか、心霊写真か?」Cが冗談めかして言った。

B自身も画面を覗き込み、首を傾げる。「変だな。ちゃんといたのに」

三人はもう一度同じ場所で並び、Aが再度シャッターを切った。

結果は同じだった。Bだけが写っていない。

 

Bは自分のスマホを取り出し、「じゃあ、俺が撮ってみるよ」。

AとCが並び、Bが数枚撮った。

「やっぱりダメだ」とBの声がやや沈んだ。

Bが撮った写真には、AとCだけが写っている。B自身は、まるでそこに存在しなかったかのように。

Bの顔から冗談めかした色が消え、冷静な、どこか諦めたような表情になった。

 

「カメラの故障じゃないか?」Aが言った。

「いや、ここに来るまでは普通に撮れてたろ」Cが指摘した。

Aは奥の院の鳥居を見上げた。苔むした石柱には、古い注連縄が巻かれている。

Bは何も言わず、ただ奥の院を見つめていた。

 

その夜、一行が宿泊している旅館で、夕食の時間になった。

「Bはまだ部屋にいるのか?」AがCに尋ねた。

CはBの部屋の戸を叩くが、返事はない。

戸を開けてみると、部屋はもぬけの殻だった。

 

旅館の仲居に尋ねた。「Bさんという方はどちらに?」

仲居はきょとんとした顔で言った。

「お客様は、お二人様でいらっしゃいませんでしたか?」

 

AとCは顔を見合わせた。

そして、旅行の初日に撮った、神社の入り口の鳥居の前での写真を確認した。

そこには、笑顔のAとCだけが写っていた。

Bは、最初から存在しなかったのだ。

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