現像された写真に、ナオキは目を凝らした。
そこに写っていたのは、ただの暗闇だった。
彼らが肝試しに行った廃工場の内部。
錆びた機械の残骸や、崩れかけた壁。
本来ならば、それらが克明に写っているはずだった。
「ケンタ、お前のもか?」
ナオキが尋ねると、ケンタは無言で自分のカメラから取り出したプリントを差し出した。
やはり、真っ黒な背景に、何も写っていない。
ミサキも同様だった。
三人が交代でシャッターを切った写真の全てが、まるでそこに何も存在しなかったかのように空白だった。
彼らの姿も、撮りたかったはずの不気味な工場の様子も。
その夜、廃工場での出来事を思い出す。
ひどく冷え込んだ、凍えるような暗闇。
フラッシュが焚かれるたびに、一瞬だけ、何かが閃いたような気がした。
それは、まるで光を吸収する穴のようだった。
三人は顔を見合わせ、気のせいだと笑い飛ばした。
しかし、その笑顔の奥には、拭いきれない不安がよぎっていた。
「本当に何も写らなかったんだな。」
ケンタの声が、ひどく遠く聞こえた。
ミサキは自分の手のひらをじっと見つめている。
指先が、わずかに透けているような錯覚に囚われた。
さらにその前。
彼らはインターネットの掲示板で、その廃工場の噂を知った。
「そこでは、写真に写らないものがいる。」
「撮った人間も、やがて消えてしまう。」
そんな馬鹿げた話に、三人は好奇心を刺激されたのだ。
夜の帳が降りる頃、彼らは懐中電灯とカメラを手に、廃工場の入り口に立っていた。
錆びたフェンス、打ち破られた窓。
廃墟特有の重苦しい空気が彼らを包み込む。
彼らは知らなかった。
噂の「写らないもの」とは、過去に同じように好奇心から訪れ、そこに留まってしまった先人たちのことなのだと。
そして、自分たちが撮った写真に何も写っていなかったのは、ファインダーの向こうにすでに自分たちの姿がなかったからだ。
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