Dr. Kは、新設された第六研究室の壁にもたれた。
彼の隣には、若いアシスタントのBがいた。
「驚くべき効率だ」とDr. Kが言った。
「ええ、博士。培養皿のバクテリアは、たった一時間で十世代も進化しました」とBが答えた。
彼らの研究室は、”進化促進装置”という新技術を導入していた。
生命の時間を圧縮し、進化を観察するためのものだった。
彼らはマウスの観察に切り替えた。
小型のケージに入ったマウスは、確かに変化し始めた。
耳が大きくなり、毛並みが鮮やかになった。
数時間後、そのマウスは明らかに人間的な表情を浮かべ、小さな声で何かを呟いた。
Bは驚愕した。
「博士、これは……」
Dr. Kは冷静に記録をとった。
「新たな種だ。学習能力も異常に高い」
翌日、ケージの中のマウスは小さな工具を使い、複雑なレバーを操作して餌を得ていた。
そのまた翌日には、ケージの隅に小さな文明を築き始めていた。
ミニチュアの建築物、原始的な文字。
Bは不安を覚えた。
「このペースでは、数週間で都市国家が……」
Dr. Kは静かに言った。
「それが我々の成果だ、B君。究極の生産性だよ」
二週間後。
研究室の床には、微小な都市がいくつも形成されていた。
マウスたちは高度な社会を築き、互いに交流し、戦争さえも始めた。
彼らは研究室の壁に、自分たちの歴史を描き始めていた。
絵には、二人の巨人、Dr. KとBらしき人物が描かれていた。
その巨人は、彼らを観察する者としてではなく、彼ら自身の創造主として描かれていた。
ある日、Bはケージから小さな金属片が投げられたのを見た。
それは精巧なミニチュアの通信機だった。
恐る恐る拾い上げたBの耳元で、かすかな声が聞こえた。
「なぜ、いつも私たちを観察するのですか?」
Bは震えた。
Dr. Kは静かに天井を見上げた。
そこには、見慣れない巨大な眼球が、彼らをじっと見つめていた。
「今月も、優秀なデータが取れたな」と、どこか遠くで声がした。
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