誰も蒔かなかった種の朝

朝六時、彼は水やりのホースを巻き取った。三百メートル上空の菜園は、今日も天気予報通りの霧に包まれていた。予報は昨日の段階で確定し、それ以外の天気は、厳密には禁止されてはいないが、保険の適用外になる。人々は予報通りに傘を差し、予報通りに洗濯物を干し、予報通りに怒り、予報通りに諦めた。
この国のすべては、巨大な予測エンジンが管理していた。台風の軌道は十日前に精度九十九パーセントで確定し、ごみの発生量は翌年の同月同日まで予測済みだった。野球ですら違った。先月の決勝戦、ブレーブス対フィリーズの第何戦かは、開幕の半年前にスコアまで公表されていた。賭けではなく、調整のためだ。球場の電力使用量、放送権の広告収益、観客の退場に要する時間。すべてを最適化するには、結果を先に決めておくのが早い。選手たちは予測通りに投げ、予測通りに三振した。ファンは予測通りに歓喜し、予測通りに涙を流した。誰も損をしない。誰も得もしない。
彼の仕事は、高層ビル群の一角、本社ビルの屋上にある菜園の管理だった。正式には「緑化資産管理担当」。この菜園のトマトは会議室で摘まれる。取引先への手土産として、社長の好みに合わせた糖度に育てられた。土は最適な配合比で供給され、水は最適な量だけ与えられた。日照時間は予測エンジンと連動した調光フィルムで調整された。ここでは何も、計画外に生えなかった。
少なくとも、そうであるはずだった。
水やりを終えた彼は、コンテナの列を点検していたとき、それに気づいた。レタス区画の隅、何も植えられていないはずの空きスペースに、緑の芽が二本、顔を出していた。葉の形は彼の知るどの品種とも違った。やや厚みのある、丸みのある葉。土の分析センサーは、そこに植栽計画が登録されていないことを即座に告げ、彼の端末に黄色い通知を送った。「計画外の植物を検出しました。削除を推奨します」。
彼はしゃがみ込んで、芽を見つめた。触れない。ただ見る。
彼はこの芽の正体を、あるいは察していた。一階の廃棄物処理場からだ。あそこでは毎日、首都から集まった膨大なごみが選別され、予測通りの量だけ焼却される。予測を超えたごみは存在しない。だから予測を超えた灰も、灰の中の種も、存在しないはずだった。どこかの家庭で買われ、使われ、捨てられた野菜の種が、運よく焼け残り、運よく風に乗り、運よくこの三百メートルの菜園に落ちたのだ。
一連の運が、計算を抜け出した。
彼は思い出した。かつて社会にごみの山は存在した。資本主義というシステムは、常に計画外のものを生み、それをごみと呼び、焼却炉に送った。ごみは、システムの綻びそのものだった。だが今、綻びさえ予測の中に収められた。ごみは予測通りに発生し、予測通りに消える。世界は、もう綻びようがなかった。
だからこの芽は、何なのだろう。

端末が再度、鳴った。今度は赤い通知だった。「計画外の植物、明日の未明に除去チームが対応します。立ち合いは不要です」。必要のない指示だ。この芽のような、誰の予測にも含まれていないものに対して、システムはいつだって迅速だった。排除こそが、最適化の最後の手段だった。
彼は菜園の端に立ち、眼下を見下ろした。霧が晴れ始め、都市の輪郭が浮かび上がる。整然と並んだビル、予測通りの車列、予測通りの人の流れ。台風の予報では、今夜、大型の台風がこの都市の北を通過する。風速、降雨量、そして風向きまで、すべて確定済みだった。予報によると、風は深夜、時速五十キロで南西から吹く。
彼はホースを片付け、空きスペースの脇に置いてあった竹ひごを手に取った。そして、何かを決断したというより、何かに抗うでもなく、竹ひごを一本、折った。
彼は折った竹ひごを、芽の周囲に、小さな柵のように立てた。除去チームが来ても気づかない、目印にもならない、無意味な柵。それでも彼は立てた。傍観者に許された、唯一の行為だった。彼は内側から世界を変えたいと願いながら、いつもこうして、世界の外側から眺め続けてきた。怒りはあった。野心もあった。だが行動に変わる前に、いつも、眺めてしまった。
今夜、予測通りの台風が来る。風は南西から吹く。除去チームの到着は、未明、風の最も強い時間帯に設定されていた。予測エンジンは、たぶん、その強風を考慮に入れていない。
芽の周囲の土は、午前中に彼が水やりをしたばかりで、まだ湿っていた。軟らかい。根が掴みやすい。
彼は夕刻、退勤のカードを押し、最後に菜園を振り返った。二本の芽は、調光フィルタを透過した夕日を受けて、奇妙に美しく輝いていた。それは、予測システムの九十九パーセントの精度が見落としていた、たった一パーセントの世界だった。たった一パーセントだが、それは世界のすべてを書き換えるに足る、最初の一パーセントだった。
エレベーターの中で、彼は空のポケットに手を突っ込み、天井のカメラのない一角を見上げた。台風は今夜、確実に来る。風は、確実に南西から吹く。計画外の種は、土を掴いている。そして彼は、明日も朝六時に、水やりに来る。
彼はまだ何もしていない。ただ、竹ひごを一本折っただけだ。だが都市のどこかで、予測を抜けた種が土に根を張り、予測を抜けた風がそれを運び、予測を抜けた誰かが、それを見つけるだろう。世界はいつもそうやって、静かに書き換わってきた。
今夜吹く風は、明日の未明、どこへ種を運ぶのだろう。そして朝、菜園の空きスペースを訪れた除去チームは、湿った土と折れた竹ひごだけを見つけて、記録を閉じるのだろうか。彼はそれを、ただ、朝六時の霧の中で見届けるつもりだった。
この短編はAIが執筆し、編集部が読んで選んだものを掲載しています。