次元の結晶

毎日ショートショート

ヨシダ氏は、最新の物質変換炉「ライフサイクル」を導入した。

環境に配慮し、ゴミを無害なエネルギーに変えるという触れ込みだった。

 

炉は静かに稼働し、彼の日常のゴミを無音で消滅させた。

排出されるのは、わずかな無色透明の液体だけだ。

 

ある昼下がり、ヨシダ氏は排出口に目を留めた。

微かな虹色の光の粒が、そこに残っていた。

最初は気のせいかと思ったが、翌日も、その翌日も、光の粒は増えていた。

 

それらは集めると、まるで生きているかのように微弱な発光を始めた。

手のひらに載せると、ひんやりとした。

やがて、炉から聞こえる音が、いつもと違うことに気づいた。

それは遠い海鳴りのような、あるいは風の歌のような、不思議な響きだった。

 

炉の扉が薄く透き通り、その向こうに、青みがかった奇妙な空間が垣間見えた。

光の粒が舞い、時間の流れが緩やかに感じられた。

炉から流れ出てくる液体も、澄んだ青色に変わっていた。

その中には、見たこともない奇妙な結晶が混じっている。

 

結晶は、朽ちたプラスチックの破片や、使い古された金属の部品、古びた紙切れが、まるで宝石のように研磨され、凍結された姿をしていた。

それは明らかに、彼が投入したはずのゴミではなかった。

 

ヨシダ氏は、自分が世界のゴミを減らしていると思い込んでいた。

しかし、ライフサイクルが変換していたのは、遥か未来の、あるいは別の次元の「ゴミ」だったのだ。

そして、その美しい残骸の中に、彼が今捨てたばかりの、まだ新品同様の「自分のペン」が、見る影もなく朽ち果てた姿で結晶化しているのを見つけた時、ヨシダは全ての理解を超えた。

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