キョウコとタナカは、今日も納骨堂の番をしていた。
ここは地下深く、窓からは常に薄暗い夕焼けが覗く。
あるいは、そう見えるだけなのかもしれない。
一日が始まるたびに、彼らは白い作業着に身を包んだ。
言葉は少なかった。
互いに何を話すべきか、もう何年も前から見失っていた。
彼らの仕事は、ただ待つこと。
そして、運ばれてくる「荷物」を受け入れることだった。
「荷物」はいつも同じ時間に、同じ扉から運び込まれた。
それは人型をしたカプセルで、中にはいつも無名の死体が入っていた。
表面に識別番号が刻印されているだけだ。
タナカは淡々と番号を読み上げ、キョウコはそれを古い帳簿に記録する。
規則に従い、指定の棚へ収める。
それだけだ。
ある日、タナカがふと顔を上げた。
「おい、キョウコ。これ、以前にも見たような気がしないか?」
彼が指さす先には、今日届いたばかりのカプセル。
中の死体は、見慣れた顔だった。
数週間前に納骨したはずの「F-312」によく似ている。
キョウコは眼鏡の奥から冷たい視線を向けた。
「気のせいよ。全て同じに見えるものよ。毎日毎日、同じ顔ばかり見てるんだから」
タナカは黙って頷いた。
だが、その日以来、タナカの視線は疑念に満ちていた。
彼は帳簿を捲り、過去の記録と今日届いた死体の識別番号を照合し始めた。
奇妙な偶然が続いた。
ある週には「A-99」が三度も納骨された。
翌月には「G-01」が五度。
「同じ人間が、何度もここへ送られてきているんだ」
タナカはついにそう結論付けた。
キョウコは笑った。
「そんなことあるはずないでしょう。一度ここに収められたら、もう終わりよ」
「しかし、事実だ」
タナカは帳簿を広げた。
そこには酷似した記録がずらりと並んでいた。
その時、納骨堂の壁に埋め込まれた古い監視モニターが点滅を始めた。
普段は何も映し出さないただの黒い板だ。
そこに白い文字が浮かび上がる。
「サイクル完了。再起動準備中。」
二人は顔を見合わせた。
何のことか分からない。
その間にも、文字は増えていく。
「初期化完了。管理者:キョウコ。管理者:タナカ。」
彼らの名前だ。
キョウコが震える声で尋ねた。
「ねえ、タナカ。私たち、いつからここで働いていたのかしら?」
タナカは答えることができなかった。
彼もまた、その質問に対する答えを持っていなかったのだ。
記憶が曖昧で、この場所に来る前のことなど、何も思い出せない。
その時、いつも「荷物」を運んでくるミスターXが、再び重い扉を開けて入ってきた。
彼はいつものように白い手袋をはめ、無表情だった。
しかし、その手には「荷物」はなかった。
代わりに、彼は二人の前に立つと、深くお辞儀をした。
「次のサイクルが始まります。新任の管理者、キョウコさんとタナカさんですね」
キョウコとタナカは、お互いの顔を見つめ合った。
彼らの記憶は、その瞬間、静かに消え去っていった。
そして、彼らは永遠に「次の管理者」として、納骨堂の扉を開け続けるのだった。
彼らの仕事は、永遠に終わらない。
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