K氏と助手Aは、朝霧に包まれた廃寺の門をくぐった。
数百年前、謎の火災で消失したとされるその寺は、今も静かに苔むしていた。
二人の目的は、古文書に記された「始まりの災厄」の痕跡を探すことだった。
堂は崩れかけ、石仏の顔は風化していた。
奥の薄暗い一角に、ひときわ大きく焦げ付いた石碑があった。
K氏が歴史文献と照合すると、それは寺の創建に関わるものと判明した。
助手Aが埃を払い、石碑の表面に触れた。
その瞬間、視界が白く閃光を放った。
遠くで人々の悲鳴が聞こえる。
熱気が頬を打った。
炎の匂い。
助手Aは手を引っ込めようとしたが、まるで吸い付くように離れない。
「これは…?」
K氏もまた、その熱と、焼ける木材の音に気がついた。
周囲の空間が歪み、灰色の世界に赤とオレンジの閃光が走る。
二人の足元に、燃え盛る木片が落ちてきた。
それは幻覚のはずだった。
しかし、肌で感じる熱は紛れもない現実だった。
彼らは炎に包まれた堂の中央に立っていた。
逃げようにも、出口は炎の壁で塞がれている。
周囲の人影が、苦悶の表情で倒れていく。
その中の誰かが、彼らを指差した。
憎悪と絶望が入り混じった瞳。
「違う!」
助手Aが叫んだ。
その声は炎の轟音にかき消された。
K氏は視線を落とした。
助手Aの手に握られた、調査用のライターが赤く燃え上がっているように見えた。
彼の顔は、炎の明かりに照らされ、ゆらゆらと揺れた。
その日の朝の冷気は、もうどこにもなかった。
二人は、焼け落ちる寺の中心で立ち尽くしていた。
幻影の中、彼らの姿は、その悲劇の「始まり」そのものと化していた。
寺の火災の起源は、彼らが「調査」に訪れた瞬間に、すでに確定されていたのだ。
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