最終回収日

毎日ショートショート

ゴロウ氏は毎朝同じ時間に目覚める。

規則正しい生活が信条だった。

今日は燃えるゴミの日だ。

彼はゴミ袋を手に、玄関を出た。

 

マンションのゴミ置き場は、いつも通りの静けさだった。

他の住人が出したらしい、色とりどりのゴミ袋が積み重なっている。

ゴロウ氏は自分のゴミをその山の一角に置いた。

 

まもなく、轟音とともに収集車がやってきた。

二人の作業員がテキパキとゴミ袋を荷台に放り込む。

機械が唸りを上げ、圧縮していく。

 

その瞬間、ゴロウ氏は奇妙な光景を目にした。

ゴミと一緒に吸い込まれていくものの中に、見覚えのある模様があった。

それは、彼の部屋の壁紙の柄にそっくりだった。

「気のせいか?」

彼は目を擦った。

 

しかし、次に現れたのは、隣のマンションのベランダの手すりだった。

歪んだ金属が、あっという間に粉砕されていく。

収集車は、ゴミだけではなく、街の一部を貪り始めたのだ。

ゴロウ氏の脳裏に、不安がよぎった。

 

作業員は無表情だった。

彼らは淡々と、目の前のビルや電柱、道路標識までをゴミと一緒にかき集めていく。

街が、まるでセットのように剥がれ落ちていく。

空も、太陽も、やがて巨大な布切れのようにちぎれ、吸引されていった。

 

ゴロウ氏は呆然と立ち尽くした。

彼の足元に、ひび割れたアスファルトが転がっている。

遠くで、最後の高層ビルが音もなく崩れ、収集車の荷台に消えていった。

残されたのは、ゴロウ氏と、二人の作業員、そして収集車だけだった。

 

作業員の一人が、ゆっくりとゴロウ氏の方を向いた。

彼の手に持たれた巨大なマジックハンドが、ゴロウ氏を指し示す。

もう一人の作業員は、手元の端末で何かを確認している。

そして、無機質な声で告げた。

「最終回収品、確認。」

 

ゴロウ氏は自分の体が、薄い張りぼてでできていることに初めて気づいた。

彼は、世界という名のセットの、最後の小道具だったのだ。

 

次の瞬間、ゴロウ氏は軽い音を立てて分解され、収集車の吸い込み口へと運ばれていった。

今日の燃えるゴミは、すべて回収された。

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