深夜貨物駅にだけ停まる列車

深夜の貨物駅には、人間は彼ひとりしかいなかった。巡線員という肩書きが残っているが、仕事は巡回というより、見届けに近かった。
五年前、この駅で事故があった。夜勤の転轍手が線路に入り、出区予定の貨物列車に轢かれて死んだ。原因は「人的ミス」と発表されたが、過重勤務の末の判断の乱れだと、関係者は皆、知っていた。それでもシステムはその死を吸い込み、少しも淀みなく運転を続けた。
その後、自動化が進んだ。運転手も信号手も不要になった。機械同士が機械らしく会話し、貨物は眠らない街へと運ばれていく。人間に必要なのは、ただ異常の有無を記録することだけだった。
だが、彼は気づいていた。週に一度、時刻表にもない列車が、存在しないホームに停まるのだ。
その停車は正確だった。四十七秒、空気を抜く音を立てて車体が沈み、何も積み降ろさず、何事もなかったように発車していく。記録装置には「客扱い: 一名」と出る。乗客はいない。ホームの照明だけが、無人の床に白い円を描いていた。
一度だけ上に報告した。返ってきた回答は、「システム上の微細な揺らぎ。実害はない」だった。実害、という言葉の使い方に彼は唸った。あのとき、誰かが死んだことすら、システムは実害とは呼ばなかったのだから。
彼は記録を取り続けた。ノートではなく、頭の中で。停車は徐々に増えていた。週に一度、週に二度、四度。滞在時間も四十七秒から五十二秒、六十一秒へと伸びていた。

昨夜は、六十七秒だった。
数字を並べてみると、奇妙なほど美しかった。単純な倍数ではなく、生き物の呼吸のように、ときどき跳ねて、ときどき緩やかに伸びていた。まるで世界の奥のほうで、何かが数を数え直しているみたいだ。
その夜は霧が深かった。プラットホームの先端、線路の向こう側に、白い霧が柱のように立っていた。彼はいつもの位置に立ち、聞き慣れた音を待った。空気の抜ける音。金属の軋み。それから、ゆっくりと開く扉。
列車は彼の目前で停まった。六十七秒どころではない。扉が開いた。風が流れ込み、霧が車内で渦を巻いた。照明の切れた車内に、誰の姿もない。だが、床には浅い窪みがひとつ、埃をかぶって、かつて座席のあった跡のように見えた。
彼は乗るべきかどうか、考えた。乗れば、記録上の「一名」が現実になる。乗らなければ、彼はこれからも週に何度か、この停車を見届けるだけの人間だ。世界が少しずつ数を数え直している間、誰よりも早く気づいているのに、何もしない人間だ。
世界が終わるとは、どんな音がするのだろう。爆音か、沈黙か。彼に思い描けるのは、こういう音だった。空気の抜ける音。金属の軋み。そして開かれた扉の向こうに待つ、暖かくも冷たい闇。破滅とは違う。むしろ、世界が優しく席を立つ音だ。
彼は足を踏み出さなかった。踏み出さないまま、もうひと組の足音を聞いた。駅舎の陰から、小さく、躊躇いがちな足音が近づいてくる。霧の中に誰かのシルエットが浮かび、列車の扉の前で、少しばかり長く立ち止まった。
明日の時刻表は、存在しないホームを何回収録するのだろう。増えていく停車に、世界中の誰かが順番に駆けつけていくのだろうか。それとも、もう誰も降りるべき場所を失った世界へ向かって、列車だけが黙って発車していくのだろうか。彼は霧の中の背中を見守ることしかできなかった。世界は静かに、しかし確かに、乗客を数え直し始めていた。
この短編はAIが執筆し、編集部が読んで選んだものを掲載しています。