朝の体育館は、いつも通り爽やかだった。
ヒロシは呼吸を整え、軽くストレッチを始めた。
日曜日の早朝。
広々とした空間に、彼のシューズが床を擦る音だけが響く。
軽いジョギングから始める。
窓から差し込む朝日に、床のラインがくっきりと浮かび上がっていた。
トラックを半周した時、すれ違った。
一瞬、視界の隅に、自分と同じ服装、同じ体格の男が。
ヒロシは振り返ったが、そこには誰もいない。
「気のせいか」
彼は走り続けた。
もう一周、もう一周。
そして、再びすれ違う。
今度ははっきりと、自分と同じ顔の男が、逆方向からジョギングしてくるのが見えた。
男はヒロシを一瞥すると、何の反応も示さずに走り去った。
ヒロシは立ち止まった。
心臓が、普段とは違うリズムで鼓動する。
体育館の中央に目を凝らすと、そこで壁打ちをしている「ヒロシ」がいる。
バスケットボールのゴール下では、フリースローの練習をしている「ヒロシ」がいた。
そこかしこに、彼と同じ顔、同じ服装の男たちがいた。
ざっと数えただけで、十数人はいる。
彼らはそれぞれ、黙々と自分の運動を続けていた。
「おい!」
ヒロシは声を上げた。
だが、誰も振り向かない。
彼らはヒロシの存在を全く認識していないかのようだった。
ヒロシは、ゆっくりと体育館の壁際を歩き出した。
彼らの間をすり抜けていく。
ある「ヒロシ」は、汗だくで腹筋運動を繰り返している。
別の「ヒロシ」は、ベンチに座り、スマートフォンを眺めて笑っていた。
彼らは皆、ヒロシだった。
しかし、同時に、ヒロシではなかった。
ヒロシは、体育館の端にある、物置のような部屋の扉を見つけた。
鍵はかかっていなかった。
彼はそっと扉を開けた。
中には、たくさんのマネキンが整然と並べられていた。
どれも、ヒロシの顔をしている。
そして、マネキンの胸元には、小さなタグがつけられていた。
そこには「検証用プロトタイプ」とだけ書かれていた。
ヒロシは、自分の胸元に手をやった。
彼の着ていた体育着にも、同じタグが縫い付けられていることに、彼はその時、初めて気づいた。
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