K氏は毎日、仮想宇宙空間を漂っていた。
彼の任務は、未発見の小惑星を探すこと。
最新のVRゲーム、「アステロイド・ドリーム」でのことである。
ある夕暮れ時、彼は奇妙な小惑星を見つけた。
それは文字通り、黄金に輝いていた。
表面には見たことのない模様が刻まれている。
彼は慎重に探査艇を進めた。
着陸し、ゲーム内で採掘ツールを起動する。
小さな金色の結晶をいくつか手に入れた。
その夜、ベッドに入ったK氏は、まだVRヘッドセットを外していないような奇妙な感覚に襲われた。
枕元に、昼間ゲームで採掘したはずの金色の結晶が、本物として置いてあった。
彼は息をのんだ。
翌朝、K氏は友人のS氏に連絡を取った。
S氏もまた、「アステロイド・ドリーム」のプレイヤーだった。
「僕もだよ、K。昨夜、ゲームで手に入れたはずの『銀の砂』が、現実の机の上に」
S氏の声は震えていた。
彼らは何かがおかしいと感じ始めた。
数日後、異常はさらに深まった。
ゲーム内で破壊した小惑星の残骸が、現実の空に、塵のような輝きとして見えるようになった。
夕焼け空に、金色の粒子が不穏にきらめく。
街の景色も、どこか仮想のテクスチャのように見え始めた。
人々の顔が、ゲーム内のNPCのように無表情に見える日が増えた。
K氏は自室の窓から外を眺めた。
夕焼けが、黄金色の小惑星の表面のように見えた。
彼はVRヘッドセットを外そうとした。
だが、それはもう彼の頭には装着されていなかった。
彼は手を顔にやった。
その手が、わずかにピクセル化しているように見えた。
「これは夢か?」
彼はつぶやいた。
しかし、その声は、どこか遠くから聞こえる、機械的なエコーを帯びていた。
彼は慌てて立ち上がろうとした。
だが、身体は彼の意思に反して、ゆっくりと虚空に浮上していく。
彼の視界の端に、メッセージが表示された。
『ステージクリア』。
彼が、新たな黄金色の小惑星として、宇宙に浮かぶのを感じた。
遠くから、別のプレイヤーらしき探査艇が、彼に向かってくるのが見えた。
K氏はただ、静かに待った。
次の採掘ツールが起動されるのを。
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