墓地の呼吸

毎日ショートショート

M氏は毎週日曜の午後、決まって郊外の墓地を訪れた。

彼の先祖代々の墓は、小高い丘の中腹にひっそりと佇んでいた。

その日はよく晴れていたが、風もなく、静けさが墓地全体を包み込んでいた。

 

M氏は持参した手桶で墓石を洗い、供え物の花を整えた。

一通りの作業を終え、彼はふと視線を向けた。

隣の区画、長らく手入れされていない古い墓石の根元に、奇妙な影が横たわっていた。

 

それは日差しの下で濃く落ちているにもかかわらず、わずかに揺らいでいるように見えた。

風は吹いていない。

M氏は目を凝らした。

影はまるでゆっくりと呼吸するかのように、かすかに膨らみ、しぼんでいた。

彼は当初、目の錯覚か、あるいは疲労のせいだと考えた。

しかし、数週間経ってもその現象は続いた。

他の、特に古い無縁仏の墓石の下にも、同様に蠢く影が見られた。

それらは皆、地面に張り付くようにして、静かに存在していた。

 

M氏は墓地の管理人であるヤマダ氏に、それとなく尋ねてみた。

ヤマダ氏は、この地で長年働く初老の男だった。

M氏が具体的な言葉を選ぶ前に、ヤマダ氏は薄い笑みを浮かべた。

「ああ、あれですか」とヤマダ氏は言った。「あれは、この地の息遣いですから」

ヤマダ氏はそれ以上何も語らず、M氏もそれ以上尋ねなかった。

ヤマダ氏の言葉は、まるで古くから伝わる言い伝えのようだった。

M氏の中で、漠然とした不安は次第に達観した好奇心へと変わっていった。

 

影は生きていた。

しかし、それは魂の残り香ではなかった。

記憶の断片でもない。

ただ、そこに「あった」ことの、純粋な物理的な痕跡のように感じられた。

彼らは地面の奥深くから何かを汲み上げ、日差しを吸い込み、静かにその形を維持していた。

M氏はそれらの影が、墓地の真の住民であるかのように思えた。

人間が彼らの上に墓を建て、一時的に滞在し、やがて去っていくのを、彼らはただ見つめているのだ。

 

ある晴れた午後、いつものようにM氏が墓地を訪れた時だった。

彼の先祖の墓のさらに隣、これまでずっと空き地だった区画に、新たな墓石が建てられているのを見つけた。

それはまだ真新しい石で、名前も日付も刻まれていなかった。

その墓石のすぐ足元に、一つの影が落ちていた。

その影はまだ小さかったが、すでに呼吸するように微かに脈打っていた。

そして、それはM氏自身の体型と驚くほど似通っていた。

 

M氏は静かにその影を見つめた。

それは、これから訪れるべき場所を、誰よりも先に示しているかのように思われた。

彼は何も言わず、ただ、その日のうちに自宅の書斎で遺言書を書き直した。

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