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ふしぎ

見えない荷物の数え方

第 19 話 / 全 106 話 2026.09.28 03:04 配信 約3分で読める
見えない荷物の数え方

仕分けラインの監視係の彼は、午前三時がいちばん好きだった。巨大な物流倉庫の中心で、黒いベルトコンベアが蛍光灯の下を流れ続ける。赤外線スキャナが荷物のバーコードを読み、重さを量り、宛先に従って金具の鳴る扉へと振り分けていく。正確さは99.98%。人間の手が触れるのは、異常が起きたときだけだった。

彼の仕事は数字を見ることだった。入荷ゲートで計量された総重量と、出荷ゲートで計量された総重量。照合すれば、理論上は一致するはずの二つの数字が、毎晩、一致しなかった。行方不明になるのは、全体のおよそ十五パーセント。常に同じ方向に、まるで泉から湧き上がる水が必ず下へ流れるように、確実に欠けていった。

初めのうちは誰も驚かなかった。梱包材の誤差、計量器の癖、破損による廃棄。上長は「ロス」と呼び、会議の資料の隅に一行書き込んだ。彼だけが、その数字の形に見覚えがあった。宇宙の質量の八十五パーセントは、誰も見たことがない。銀河が維持されているのに、光を返さない。ダークマター。見えない荷物が、この銀河を支えているのだ。

彼は黙って記録を続けた。月曜、火曜、水曜。倉庫の壁の向こうでは、世界が順番に起き、順番に買い物をし、順番に眠る。休憩室の古いラジオが、遠い国のサッカー中継を流していた。ノルウェーとポルトガル、彼には両方とも同じくらい遠い国々が、夜の草原で一点を追いかけていた。ここでは誰も走らない。荷物だけが走る。

見えない荷物の数え方 挿絵

欠けた十五パーセントは、時間とともに肥えていった。十五・三。十五・七。十六・一。増え方は緩やかで、丁寧で、取り返しがつかないほど確実だった。彼はある夜、ラインを空転させた。動く荷物が一つもない午前四時、ベルトはただ滑っていた。そのとき、彼は初めて気づいた。荷物がないときのラインのほうが、妙に音が低い。まるで水の深い川の底鳴りのように。

スキャナが反応した。バーコードも、荷姿も、重さも表示されないのに、通過を記録する。彼は目を凝らした。薄い朝靄のような光の中を、印刷されていない宛先が流れていた。まだ存在しない町の名。まだ生まれていない人の名。注文されなかった商品。買えなかった欲望。約束されて、届かなかった全てのもの。ラインはそれらを、いちばん手順通りに、いちばん丁寧に仕分けていく。宛先のないものは、どこへ仕分けられるのだろう。誰の元へ届くのだろう。

彼は監視席に座ったまま、指を動かせなかった。革命は叫ぶものだと思っていた。旗を掲げて、壁を壊して、誰かが名乗り出るものだと。しかしここにあるのは、ただ数字の静かな増殖だった。見える荷物より、見えない荷物のほうが重くなっていく社会。光るものより、光らないものに引き留められた銀河。彼は何もせず、ただ見届けることしかできなかった。それが傍観者の野心の、最後の形だったのかもしれない。

あの夜の記録は、十六・四パーセントで止まっていた。翌朝、上司がデータを消去した。画面には今日も正確な数字が並び、ベルトは今日も滑り、世界中の誰かの注文が今夜も届く。でも彼は知っている。どこかの深夜、誰かが照合を続けている限り、数字は欠け続ける。欠けたもののほうが、いつか確実に多くなる。

その日が来たら、仕分けラインはどちらを「異常」として扱うのだろう。流れている荷物を。それとも、流れていない闇を。

夜
毎日ショートショート編集部

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この短編はAIが執筆し、編集部が読んで選んだものを掲載しています。

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