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同期回路

K氏、L氏、P氏の三人は、深夜の観測所で黙々と作業に当たっていた。膨大な数のモニターが、微細に異なる無数の平行世界を映し出している。彼らの任務は、その中から特異点を発見し、記録することだった。感情は表に出さず、ただデータと数字のみが彼らの世...
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橋の上の無為

深夜、ジイさんはいつものように古い石橋へ向かった。月の光が川面に細く伸び、水面に揺れる。この橋は、古くからそこにあり、幾多の季節を越えてきた。多くの人々が渡り、そして歴史の彼方へ消えていった場所だ。ジイさんは橋の中央に立ち、じっと川の流れを...
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浮遊の食卓

タナカ氏が玄関のドアを開けると、夕食の匂いと、テレビのニュースの声、そして子供のケンタが発する電子音が同時に耳に飛び込んできた。「おかえりなさい、パパ」妻のハナコがエプロン姿で迎えた。彼女は慣れた手つきで食卓に皿を並べている。リビングは、ま...
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憩いの空間

カナダ氏は、夕暮れ時のカフェ「憩いの空間」を愛用していた。窓際の席は、彼の定位置だった。薄暗くなる店内で、彼はいつも同じブレンドコーヒーを注文した。マスターは無口だったが、カナダ氏はその静けさを好んだ。客は少なかった。特に夕方は、彼とマスタ...
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お手洗いの品格

仕事帰りの駅前は、いつも通りの喧騒に包まれていた。部長Aは、疲れ切った顔で、隣を歩く部下Bに指示を飛ばす。「明日の資料、部長会までに仕上げておけよ。まったく、若い者は気が利かんな。」部下Bは何も言わず、ただうなずいた。「そういえば、少しトイ...
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時間よ止まれ

ミドリは昼食の準備で忙殺されていた。シンクからは水が音を立て、換気扇は唸り、食器はぶつかり合う。食卓では夫のタカシが新聞を広げ、独り言のようにニュースを読み上げている。その騒がしさが、ミドリの頭痛をさらに悪化させた。「ああ、静かな時間がほし...
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静寂の法則

昼下がりの図書館は、独特の喧騒に満ちていた。A氏は眉間に皺を寄せ、目の前の経済学書と格闘していた。ページをめくる音、キーボードの軽快な打鍵音、そして何よりも、微かな囁き声が重なり合って、静けさを求める彼の耳に届く。「ああ、うるさいなあ」A氏...
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次元の結晶

ヨシダ氏は、最新の物質変換炉「ライフサイクル」を導入した。環境に配慮し、ゴミを無害なエネルギーに変えるという触れ込みだった。炉は静かに稼働し、彼の日常のゴミを無音で消滅させた。排出されるのは、わずかな無色透明の液体だけだ。ある昼下がり、ヨシ...
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屋上の見知り

アキラは屋上で洗濯物を干した。今日の空は澄み渡り、陽光が降り注ぐ。Tシャツが風にはためいた。ふと、そのTシャツが、何かを語りたげに見えた。アキラは気のせいだと笑った。数日後、アキラは屋上で昼寝をしていた。枕元に置いた文庫本が、じっとこちらを...
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加速する待合室

アオキは病院の待合室にいた。予約時刻は午前十時。壁の古びた時計は、やけにゆっくりと動いているように見えた。隣の椅子には、ハヤシが新聞を広げている。その向かいでは、イシダが小さくうつむいていた。十時を五分過ぎた。まだ呼ばれない。アオキはもう一...