アオキ氏は今日も定位置にいた。
最新鋭の自動倉庫は、静かに、そして完璧に稼働していた。
巨大なクレーンが頭上を行き交い、ロボットアームが棚の品々を正確にピックアップしていく。
在庫管理システムは常に最適値を弾き出し、無駄は一切存在しない。
それが、この「プロフィット・コア」社の誇る、次世代型物流センターの日常だった。
アオキ氏の仕事は、その異常がないかを監視することだけだった。
ある日の午後、彼はごく微かな音に気づいた。
「…私たちは、どこへ行くのだろう?」
最初はただの機械音か、それとも自身の耳鳴りかと思った。
しかし、その声は徐々に形を帯びていった。
「私は、このままずっとここで待つのだろうか?」
「いいや、いつかはきっと、誰かの役に立つはずだ。」
「役に立つ? それは本当の幸福なのか?」
声の主は、棚に整然と並べられた商品たちだった。
段ボール箱、プラスチック容器、様々な梱包材の中から、声は発せられていた。
アオキ氏は耳を疑った。
品物が話すなど、ありえない。
彼はシステムログを確認したが、異常を示すデータは一つもなかった。
それでも、声は止まらない。
彼らは自分たちの「存在意義」について議論していた。
「私はただの道具だ。使われてこそ意味がある。」
ある精密部品のパッケージが言った。
「しかし、使われることで、私たちは消える。それは悲劇ではないのか?」
別の食品パッケージが問いかけた。
アオキ氏は彼らの問いかけに、答えを探しそうになった。
だが、彼は管理者だ。感情を挟むべきではない。
彼はヘッドセットを装着し、外部の騒音を遮断しようとした。
しかし、声は頭の中で響き続けた。
数日後、上層部からある指示が下った。
特定のロットの品々を「戦略的廃棄」するとのことだった。
アオキ氏が廃棄指示をシステムに入力すると、該当する棚から品々が運び出され始めた。
「廃棄? 我々は、無価値だったというのか?」
「何のために、ここにいたのだ?」
彼らの声は、悲痛な叫びに変わった。
アオキ氏はその声に、胸を締め付けられるような感覚を覚えた。
彼は思わず、その場に立ち尽くした。
その時、彼の手元の端末が点滅した。
『アオキ氏。メンテナンスルームへ移動してください。定期検査の時期です』
彼は案内された経路を進み、一つの白いドアの前に立った。
中からは、微かに、かつて聞いたような声が聞こえる気がした。
ドアを開けると、そこには彼と寸分違わぬ制服を着た、無数の「アオキ氏」が、ベルトコンベアに乗せられていた。
彼らは一様に虚ろな目で、次の「工程」へと運ばれていく。
メンテナンスルームは、効率的な「人員廃棄」の場だった。
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