題: 最後の直線が持ち上がる

終着駅の管理人は、朝八時に改札の錠を開けに行く。最後の電車が出てから三十七年、誰も通らない改札である。錆びてはいない。毎日、決まった方向に回しているからだ。
待合室の時計は、午後五時四十三分で止まっている。最終電車の出た時刻だ。彼は巻かない。巻く理由を、彼は持っていない。時計の下には駅名の札。札の下には、彼が毎年書き直す「終点」の二文字。
仕事は、駅を「在ったまま」にしておくことだった。時刻表の剥がれかけを貼り直し、ホームを掃き、先端の丸い鏡を磨く。月末に所定の用紙へ「異常なし」と書いて送る。返事は来ない。送り先の本社は、もうどこにもない。
時刻表の最後の行は、十七時四十三分、この駅行き。起点発の便が並ぶ上のほうの行は、とっくに擦り切れて読めない。人と材木は山から下りてきて、この駅で終わった。行き先は、みんな同じだった。
駅長室の金庫には、廃止の日の売上の預り証と、売れ残りの切符が三枚ある。行き先はどれもこの駅だ。彼は折に触れて札入れに入れて眺める。札入れの革は角から白くすり切れ、三枚の切符はどれも同じ駅名の肩で折れていた。
年に一度、洋紙の封筒が届いた。差出人の名はそのたびに変わり、中身は三十七年前に消えた運営会社への支払い通知だった。彼は様式どおり「宛先に該当する会社は存在しません」と添えて返し、翌年また別の名前の同じ文面を受け取った。

通知の隅には債権の額面が小さく印字され、初めの年の三十億は十億になり、一億になり、昨年は八百万になっていた。彼は通知を年度の順に並べ直し、金額の欄だけを指先でなぞった。
夕方になると、彼はホームの先頭に立つ。線路は山の向こうの起点まで、二十七キロを一本の直線で光らせている。この国にまだ残っていた、まっすぐなものの最後のひとつだ。西の光が線路を伝わって流れてきて、彼の靴先で止まる。水のようだ、と彼は思う。ただし水は低い方へ流れる。この光は、終点に向かって静かに集まってくる。光の先で、彼の影が線路の上に細く伸びる。彼は線路の切れた端に立ち、靴先でレールの頭を撫でるように擦った。それ以上、鉄はどこへも行かない。
今年、封筒は来なかった。代わりに、二人の男が来た。白いヘルメットに艶のあるベスト。首から薄い板を下げ、ホームの端から端まで歩き、レールの継ぎ目を順に撮っていった。彼らは壁の運賃表も撮った。四十年前のままの、どの距離も今のどこよりも安い表だ。男の一人が、初めて小さく笑った。それ以外に、彼らは一度も彼を見なかった。見ていたのは、線路の続く方角——山の向こうだけだった。
半月後、作業服の男たちが来て、十本おきの枕木へ黄色い×を描いていった。撤去です、と男は言った。それだけだった。三十七年、誰も口にしなかった言葉が、彼の駅に到着した。
もう一度、通知が届いた。差出人は、無駄のない記号を並べたような名前の会社だった。債権は額面の百分の一で引き取られ、担保に入っていた土地——二十七キロの路盤と、この終着駅——ごと、新しい所有者のもとへ移った。通知に使用目的は書かれていない。書かれていたのは、引き渡しの日だけだった。八百万の百分の一。彼は金庫の切符を思い出した。三枚で、六百円。どこへも行けないものの値段は、最後にはそうなる。
撤去は起点から始まった。夕刻、風向きが変わると、山の向こうで鉄の擦れる音が聞こえた。最初の一本が、枕木から外される音だった。音は二度、三度と続いた。間隔は一定で、作業の手を休めない律動だった。彼は制服の帽を脱いだ。やがて線路の下の白い砂が、生まれて初めて空気に触れる。何十年、鋼の重みだけを知って眠っていた砂だ。
翌朝八時、彼は改札の錠を開けた。駅の壁には白いペンキで番号が書かれていた。二十七キロに並ぶ数列の、最後の番号である。彼は昨日と同じ手つきで、時刻表の剥がれかけを貼り直した。山の向こうの鉄の音は、昨日より間隔が短かった。
この短編はAIが執筆し、編集部が読んで選んだものを掲載しています。