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観覧車の六つ目の星

第 42 話 / 全 50 話 2026.09.30 17:09 配信 毎日ショートショート編集部
観覧車の六つ目の星

遊園地の閉園が決まったのは、三月の初めだった。最後の日、観覧車は故障のために回らなかった。乗客の誰も文句を言わなかった。みんな、携帯電話の画面の中で、すでに別の場所に行っていた。

彼はもともとメンテナンス部門にいた。ゴンドラの制御装置を直す仕事だった。人員整理のとき、端のほうの警備室に移された。深夜の巡回は自動の警備機械に任せられ、彼の仕事はモニターを眺めることだけになっていた。夜の遊園地は、もはや人を必要としていなかった。機械は迷わないし、疑うこともない。彼だけが、夜ごとここにいた。

それでも彼は、毎晩、故障したとされる観覧車の照明装置だけは自分で回していた。許可は取っていない。むしろ夜の十時に電源が落ちるのを待ち、停電時用の蓄電池に切り替えるのだ。誰も気づかない。気づく者がいないからこそ、彼はそれを続けていた。ゴンドラは止まったまま、円環だけがゆっくりと回る。ゴールのない長距離走のように、終わりのわからない運動のように。

観覧車の照明は、白い星のかたちをしていた。五つの大きな灯りが、北の十字をなしていた。古い案内板には「クロワ・デュ・ノール」と書かれているが、字は薄れて読めない。本来、点灯は音楽に合わせて散りばめられるはずだったのに、老朽化した制御盤は五つだけを同時に灯し、残りの小さな灯りを不規則に点滅させる。見る者のいない空に、不完全な星座が浮かんでいた。

北の十字は、六つ目の星を欠いていた。数年前のリニューアルで、中心の灯りだけが予算の都合で省かれた。担当者は書類にそう記した。十字の真ん中に穴が開いたまま、観覧車は十年間、回り続けた。誰も文句を言わなかった。故障ではないから、直す必要もない。穴は、点検票のどこにも載らない。

彼は、星を知らなかった。知ったのは、閉園前夜、柵の外に座り込んでいた若者たちを見たときだ。彼らは入場料を払わず、フェンスの外から観覧車を眺めていた。乗ることより、見ることのほうが大事なのだ。十字の穴を見つけて、一人が言った。「あそこに、ひとつ星が足りない」

彼は言われるまで気づかなかった。十年間、整備しながら、欠けた星に気づかなかった。奇妙なことだった。彼は穴を埋める仕事の人間なのに。

観覧車の六つ目の星 挿絵

閉園後も、彼は巡回の名目で毎晩やって来た。機械の巡回経路に観覧車は含まれていなかった。解体の重機は、まだ数週間先だった。夜の観覧車は、費用対効果の悪い静物として、誰の目にも触れないまま残されていた。彼は蓄電池のスイッチを入れ、五つの星を灯した。点滅する小さな灯りを見ていると、星たちが呼吸しているように見えた。それは世界の終わりのように美しかった。何かが静かに崩れて、崩れたもののあとに、かつて見た景色が戻ってくる。彼はその予感を、息を殺して見つめていた。

やがて、柵の外に人が集まり始めた。最初は数人だった。やがて数十人、数百人になった。若い男女が、アスファルトに座り、夜気に身をまかせ、空の星座と観覧車の星座を見比べていた。誰も入場券を買わない。誰も商品を買わない。ただ、ひとつ欠けた十字を眺める。それが、彼らにとって唯一の入場料の払い方だった。

警察が来たのは、集まりが千人を超えた夜だった。違法集会の疑い。警備機械が異常を検知して通報したのだ。しかし警官たちは、フェンスの前に座り込む若者たちを前に、何もできなかった。観覧車は私有地の中にある。解体の許可も下りている。だが彼らが見ているのは、ただ、星だった。星を見ることを、法律で禁じる文面は、どの条文にもなかった。

その夜、彼は制御盤の前に座った。残された六つ目の照明モジュールは、予備部品の箱の奥に眠っていた。彼は十字の中心に灯りを一つ加えることができる。契約違反になるだろう。けれど灯火が一つ増えるだけで、人々は十字を完成させるために集まってくる。消費しない集まり。誰の富も生まない、美しい混雑。

夜明け前、重機のエンジン音が近づいていた。彼は手をのばしかけて、やめた。五つの星は、少しずつ明るさを落としている。蓄電池は尽きる。解体業者の作業灯が、フェンスの影を長く伸ばした。

彼は、もうひとつの考えを持っていた。六つ目の星を灯す代わりに、残りの五つを消すこと。そうすれば、真夜中の空には、うっすらと、本物の北の十字が姿を現すはずだった。都会の光に押し潰されているが、確かにそこにある、六つ目の星ごとの、十字。

どちらがいいのか、彼にはわからなかった。人々が見たいのは、機械の星なのか。それとも、機械が消えたあとに現れる、遠い星なのか。完成させることと、手放すことの、どちらが終わりなのか。彼はスイッチに指をかけたまま、解体の音がフェンスに届くのを待っていた。待っていれば、どちらかに決める必要などないかもしれない。夜はまだ、長かった。

夜
毎日ショートショート編集部

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