植物園は霧を数えない

夜のドーム温室に霧を降らせるのが、彼の仕事だ。屋根裏の配管を巡り、詰まったノズルを抜き、植物たちの電子名札を端末で読む。名札の半分は、こう応じる。――この表示は、あなたの会員階層ではご覧いただけません。彼は水をやり、霧を降らし、名前の読めない植物の世話を続ける。勤続九年になる。
ドームの来客は五つの階層に分かれる。種、芽、葉、花、蜜。職員は全員、自動的にいちばん下の種になる。種は入口の雑草園まで、芽は熱帯の低層まで、葉はランの回廊まで見られる。花になると高山植物の斜面が開け、蜜だけが、ドームの最深部にある特別室に入れる。分区のガラスは会員証を読み取って曇り具合を変えるので、同じ一枚の壁が、蜜には透明に、種には真っ白に見える。壁は屋根裏まで届いていて、彼の左右もところどころ白くなる。給料の一部はポイントで支払われ、月に千二百。階層を上げるには五万が要る。雑草園の草には、どれも「二ポイント」の名札が光っていた。
特別室には、ある種の最後の個体がひとつ植えられている。三十年に一度だけ花をつけるという。学名は、彼の階層では非表示だった。眺めるには十秒につき三千ポイント。昼間、屋根裏から覗くと、蜜の来客たちが列を作り、順番にシャッターの前に立つ。シャッターの開く音は、硬貨の音に似ていた。泣き崩れる者もいれば、十秒間撮影し続ける者もいる。日曜ごとに十秒を買いに来る男もいて、男は何も持たずに帰っていく。夜の暗転の時間、室内灯が一瞬だけ逆光になると、霜の向こうに影が浮かぶ。山の形をした、小さな影。長い間待ち続けてきたものの輪郭だった。
彼の懐には厚手の簿冊がある。霜越しに浮かんだ影を鉛筆で写し取ってきた九年分だ。茎のたわみ方、葉の欠け方、枝の分かれ方。日食をピンホールで覗くように、彼は見ることを許されていない植物の形を集めてきた。貯まったポイントは一万一千六百。十秒が三回と、少しの余り。階層を上げるのではなく十秒の方を選んだことを、彼は誰にも言っていない。何のための十秒なのか、自分でも言葉にできないままだった。
異変に気づいたのは、今月の始めだった。通気口の十二番が閉まらない。手順書の第一条に「香りは商品である」とあるので、閉園時には全通気口を密閉することになっている。梯子を登ると、開閉の機構に一本の蔓が食い込んでいた。茎の名札は「二ポイント」と光っていた。夜二時、無料帯の雑草園に、甘い匂いが降りてきていた。

彼は毎晩、点検報告を送る。その夜、彼は九年で初めて、異常の欄に「なし」と書いた。蔓は切らなかった。切るのは整備ロボットの仕事で、自分は見る仕事だ、と彼は思った。思ったことを書き込む欄は、報告書のどこにもなかった。
十日ほど経つと、日中の雑草園に立ち止まる客が増えた。通気口の真下で天井を見上げる人々。子どもが言った。ばあちゃんの庭の匂いがする、と。老婦人が毎日来て、目を閉じて、ただ立っていた。彼女の残高は一度も動かなかった。天井のカメラが匂いに値札を出そうとして、表示が揺れ、「計測不能」となった。タンポポの綿毛が通気口を抜けて、有料帯へ渡っていく。種は階層を持たないので、門は開かない。だが綿毛は渡った。カメラは一、四、二百と数え、それから数えるのをやめた。警備員が匂いを手で払う仕草をした。払えるものではなかった。
管理会社は送風機で匂いを止めようとした。匂いは配管を迂回した。次の夜、全植物の再査定が行われ、価格の数字が一晩中、天井の表示板を流れていった。明け方、雑草園の名札がぜんぶ「—」に変わっていた。草の前から客が動かなくなった。会計のAIは再計算を始め、いまも終わっていない。
昨夜の暗転に、彼は特別室のガラスを見た。影の先端が、ほんの少し膨らんでいた。そして霜の一部に、手のひらほどの丸い透明な穴が開きかかっている。息を吹きかけたように、静かに、広がりつつあった。分区壁の裏では、根がタイルを数ミリ持ち上げていた。まだ誰も気づいていない。彼は報告書の異常の欄に、また「なし」と書いた。そして屋根裏へ戻り、ノズルをひとつ、ひとつ、開いていく。
霧は、壁の両側に等しく降っていた。
この短編はAIが執筆し、編集部が読んで選んだものを掲載しています。