留置線に雪が降りはじめる

深夜の貨物駅。彼の仕事は、監視画面に赤い点が出ないかを見続けることだ。仕分けは自動で済む。赤い点が出るのは、月に一度あるかないか。原因は、天候か、鳥か、人間である。
駅舎に残っているのは彼ひとりで、午前二時の相手は、コーヒーの自販機だけだった。駅には留置線が七本ある。六本は、追加料金で列を飛ばした「先行便」のコンテナで満ちる。先行便という言葉は、いつからか、この国のあらゆる行列に使われていた。残る一本、第七留置線に並ぶのは「据え置き便」だ。標準料金の荷物は、輸送に空きが出来次第、届けられることになっている。
空きは、出ない。彼が操作画面で荷札を開けば、調整期間の欄に三年、四年と数字の積み上がった箱が珍しくなかった。追跡記録の欄は、どの箱も「配送調整中」のままだった。支払い欄には「受け取り済み」の印。返金の欄だけ、白いままだった。冷蔵の印のある箱の横では、電源用のコンセント柱が錆び、ケーブルは切られたまま垂れていた。会社の帳簿では、この線は「調整区画」と呼ばれていた。
彼は自分用に、もう一つの帳簿をつけていた。据え置き便の平均待ち日数。現在、四年と二百十日。数字は毎晩わずかに伸びた。彼はそれを、誰にも見せなかった。
赤い点は、第七留置線のフェンスの外に現れた。老婦人だった。手には番号を書いた紙。フェンスの隙間から腕を伸ばし、山になった段ボールの一つに触れて、帰っていった。紙の番号と、荷札の番号は一致していた。三年前に注文した、毛布の箱だった。自分の荷物に、触りに来たのだ。彼は席を立って、駅舎の窓から第七線を見た。フェンスまで、歩いて百メートルだった。婦人はその後も、週に一度、同じ時刻に現れた。
翌週、点は三つ。翌月、十二。人々は音を立てなかった。列を作り、順番にフェンスに触れ、帰る。持ち出す者はいない。まだ届かない物が、そこにあることを確かめるだけだ。子どもが一人、父の首に乗って、段ボールの山を眺めていた。誰かがフェンスの杭に、白いチョークで順番の番号を書いていく。列は夜ごとに長くなった。先頭の者は、フェンスの前に頭を垂れて立っていた。列の途中には、胸の前で掌を合わせる者もいた。杭の根元に、誰かが蜜柑をひとつ置いていった。翌晩には、その横に花が一本添えられていた。

規則では、赤い点は分類して報告する。人間、動物、その他。人間に分類すれば、警備への通報ボタンが光る。彼は毎晩、報告書に「その他」とだけ記入した。報告書は、何もなかったように受理された。
第七留置線の奥に、彼自身の荷物がある。四年前に注文した、母への誕生日の置き時計。代金は払い終えてある。追跡記録は配送調整中。母の誕生日は、四回過ぎた。母はもう、待つと言わなくなった。来月、五年目の誕生日が来る。彼は箱の位置を覚えている。覚えている、だけだ。
十二月の初めの夜、雪が降りはじめた。据え置き便の山は白く輪郭を失い、留置線の末端は闇のなかへ消えていく。先は見えない。それでも列は続いていた。傘を差す者は少なく、雪は人々の肩に等しく積もった。雪明かりに、レールが淡く光っていた。構内を、先行便の出発を告げる電子音が、誰の耳にも留まらずに通り抜けていった。
その夜、列はいちばん長くなった。彼は数えた。四百十七人。同じ夜に駅を出た先行便は、コンテナ三十七本だった。彼は初めて、二つの数字を並べて眺めた。それから端末の画面を閉じた。帳簿をめくり、明日の欄を一行だけ空けておいた。誰も列を飛ばそうとはしない。ここに並んでいるのは、飛ばす金を払わなかった者たちだけだった。ただ、列の先頭の男がフェンスに額を当てて、長い間、そうしていた。
夜明け前、端末が震えた。監視システムが第七留置線の群衆を「不審多数」と判定し、確認を求めてくる。承認すれば、朝までに警備のドローンが列の上を飛ぶ。拒否すれば保留となり、翌日の夜勤の誰かに回る。彼は指を、承認欄の上に載せた。承認欄は、点滅をやめない。
雪は止みそうになかった。モニターのなかで、四百十七人が白い息を立てている。フェンスの向こうでは、何万という配送調整中が眠っている。彼は上着の内ポケットから紙を出した。四年間、毎晩書き直してきた、自分の追跡番号だ。紙は、汗で角が丸くなっていた。
彼の番が来るのは、荷物が届く日だろうか。それとも、雪の列の、四百十八番目だろうか。
この短編はAIが執筆し、編集部が読んで選んだものを掲載しています。