完璧な物語の終着点

毎日ショートショート

朝の光が、ガラス張りの研究所に降り注いでいた。

太平洋に浮かぶ孤島。

そこには、世界でも有数の量子存在化研究所があった。

ドクター・Kは、淹れたてのコーヒーを一口含んだ。

アソシエイト・Sが、複数のモニターを指先で操作している。

 

「準備は万端です、ドクター」

Sの声は、機械音にも似て淡々としていた。

「では、始めよう」

Kは満足げに頷いた。

 

今日の実験は、極めて野心的だった。

物質ではない、抽象概念の存在化。

具体的には、「完璧な物語」を量子レベルで具現化する試みだ。

Kは数年前からこの概念に囚われていた。

Sは冷静にプロトコルを実行する。

 

メインモニターに、複雑な数式とグラフが流れ始めた。

研究所の中心にある巨大な量子炉が、鈍い音を立てて起動する。

室内の空気が、微かに振動するのを感じた。

数値が安定する。

Sが最後のスイッチを押した。

 

瞬間、量子炉から眩い光が放たれた。

光は収束し、やがて透明な結晶のような塊になった。

それは、ゆっくりと脈動しているように見えた。

KとSは息を呑んで見つめた。

そこに、何かが現れる気配はなかった。

 

「失敗か?」

Sが眉をひそめた。

Kは首を横に振った。

「いや、これは…」

彼は結晶に手を伸ばした。

 

結晶に触れた途端、奇妙な感覚がKを襲った。

まるで、自分が透明な箱の中に閉じ込められたような。

Sもまた、顔色を変えて結晶に触れた。

二人同時に、一つの明確なメッセージが頭に響いた。

 

それは、自分たちの存在を規定する、無数の文字列だった。

「量子存在化、成功」

Kは呟いた。

Sは震える声で続けた。

「でも、これは…」

彼らの視界の端に、小さなテキストボックスが浮かび上がった。

そこにはこう記されていた。

 

『星新一スタイルのショートショート。テーマ:爽やかな孤島研究所で量子存在化。トーン:メタフィクション的な。カテゴリー:SF系。時間帯:朝。』

 

二人は顔を見合わせた。

Kのコーヒーカップが、突然、小さな吹き出しに変わった。

Sのモニターには、「文字数:987」と表示されていた。

「どうやら、我々もその『完璧な物語』の一部だったようだな」

Kはそう言って、虚空に浮かぶ自身の名前の横に、小さく『登場人物』と記されているのを見た。

彼の言葉は、まるで誰かに読まれているかのように響いた。

#ショートショート#毎日投稿#AI#SF系#朝

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