ヨシダは、近頃奇妙な夢を見ていた。
夜ごと、古びた占い師の店が脳裏に現れる。
老人が一人、いつも同じ言葉を告げた。
「あなたは、既に決断を下しています。」
その夢の店が、ある日、彼の日常に現れた。
会社の帰り道、裏通りに「永遠の兆し」という店が佇む。
古びた看板に、ヨシダは心臓が跳ねた。
ドアを開けると、夢で見た老人が姿を現した。
ミスター・ジェイは、ヨシダを椅子に促した。
「やはり来られましたね、ヨシダさん」
その声は夢の中と寸分違わなかった。
「あなたが見ていた夢。それは、あなたがこの店を訪れる未来から送られたものです。」
ヨシダは困惑した。
ミスター・ジェイは続けた。
「私が語る未来を知ることで、あなたは決断を下します。」
「その決断が、あなたの今の日常を構成しているのです。」
ヨシダは、数年前、転職を諦め現在の職場に残った決断を思い出した。
「私が伝える言葉はこれです。『変化を恐れるな。ただし、その変化が、停滞を生む可能性を考慮せよ』」
ミスター・ジェイは核心を突いた。
「あなたは、未来で私に会うことで、過去の決断の意味を知り、その決断を今、再び下すのです。」
ミスター・ジェイはにこやかに言った。
「あなたがこの店に来たのは、あなたが既に、その決断を下しているからに他なりません。」
ヨシダは混乱し、同時に納得した。
未来からのメッセージが過去の決断を促し、「今」を形成している。
だが、そのメッセージは「未来の彼」がこの店を訪れた結果だ。
どちらが先だったのか。
ヨシダは立ち上がった。
「お代は?」
ミスター・ジェイは首を振った。
「お代は、あなたが過去に、未来で私の店を訪れた時に、既にいただいております。」
日常は何も変わらない。
しかし、彼は今、その日常の終わりを知る。
彼がこの店に来たのは、その終わりを告げる夢の始まりだったのだ。
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