シマダは興奮を抑えながら、老司書フカミの後に続いた。
図書館の開館前、静まり返った廊下には、朝の光が差し込んでいた。
目指すは、滅多に開かれることのない「朝露の禁書庫」。
特別な許可を得て、ようやく足を踏み入れることができる場所だった。
シマダの目的はただ一つ、永遠の知識を探求すること。
フカミは重厚な木の扉の前に立ち止まった。
鍵穴に古びた真鍮の鍵を差し込み、ゆっくりと回す。
ギィ、と鈍い音がして、扉は微かに開いた。
そこは外界とは隔絶された空間だった。
薄暗い中に、かすかな湿気と、植物の香りが漂う。
天井からは、本当に朝露のような雫が規則的に滴り落ちていた。
石の床には苔が生え、本棚には蔦が絡みつく。
「ここは、時間がゆっくりと流れる場所なのです」
フカミの声は、しっとりとした空気に吸い込まれていくようだった。
並べられた古書は、一冊一冊が長い歴史を刻んでいる。
中には、まだ誰も読んだことのないものもあると聞く。
フカミは奥へと進み、ひときわ大きく分厚い古書の前に立った。
表紙は羊皮紙でできており、表面には不思議な模様が刻まれている。
その古書の中心に、一粒の雫が乗っていた。
まるで小さな宝石のように、かすかな光を放っている。
「それは、時を止める水滴です」
フカミは静かに言った。
シマダは息をのんだ。
彼が探し求めていたものが、まさに目の前にあるのだ。
彼は震える手でその雫をそっとすくい上げ、迷わず口に含んだ。
ひんやりとした感触が喉を通り過ぎ、体の奥へと染み渡っていく。
何も変わらない。
だが、その瞬間から、シマダの身体は老いることをやめた。
数十年が過ぎた。
フカミは静かに引退し、図書館の片隅で眠りについた。
シマダは禁書庫の新しい守り人として、今日も知識の探求を続けている。
彼は永遠に書物を読み、永遠に世界の変化を見つめてきた。
そして、数百年が経った、ある朝のことだった。
図書館の扉が開き、一人の若い研究者がフカミがかつて立っていた場所に立っていた。
彼の目は、かつてのシマダと同じように、知識への渇望に輝いている。
シマダは重厚な禁書庫の扉の前に立ち、ゆっくりと鍵を開けた。
その扉の向こう側で、シマダは新しい探求者を招き入れた。
彼の姿は、かつて彼を導いた老司書フカミと寸分違わぬものになっていた。
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