記憶の残滓

毎日ショートショート

ミスター・Kは、薄暗い夕暮れの中、見慣れない路地を歩いていた。

足元には落ち葉が舞い、ひっそりとした街並みに彼の足音だけが響く。

 

ふと、古びた看板が目に留まった。

「記憶の残滓」

煤けたガラスの向こうには、埃をかぶったガラクタが所狭しと並んでいる。

 

彼は好奇心に駆られ、軋むドアを開けた。

カランコロン、と寂しい音が店内に響く。

店内は、奇妙な静けさに包まれていた。

古びた家具、使い古された食器、錆びついた機械部品。

それらすべてが、それぞれの物語を秘めているかのように見えた。

 

奥から、皺だらけの顔をした老人がゆっくりと姿を現した。

店主だろう。

彼は何も言わず、Kに視線を向けた。

 

Kはガラスケースの中に目をやった。

そこで彼の視線を捉えたのは、文字盤がひび割れた懐中時計だった。

どこか見覚えがあるような、ないような。

 

「この時計は……」

Kが口を開くと、店主は静かに言った。

「それは、キミの祖父の友人が持っていたものだ」

Kは息をのんだ。

「まさか……なぜそれを?」

「彼はある秘密を抱えていた。キミの祖父とだけ共有していた、小さな秘密をね」

 

店主は淡々と言葉を続けた。

「その秘密とは、キミが子供の頃、庭の裏に埋めたブリキのロボットのことだ」

Kの背筋に冷たいものが走った。

ブリキのロボットは、誰にも話したことのない、幼い頃の記憶だった。

彼は動揺を隠せない。

 

「あなたは一体、何者なんだ?」

Kは声を震わせて尋ねた。

店主は薄く笑った。

「ここに並ぶものは、すべてを覚えている」

「そして、記憶は、人から人へ、物から物へ、移り変わるものだ」

 

店内の古道具たちが、Kに語りかけてくるように感じられた。

彼らの記憶が、Kの頭の中に流れ込んでくるような錯覚に陥る。

Kは一歩、また一歩と後ずさった。

この店から逃げなければならない。

 

「お客様も、いずれは私のコレクションの一部となる」

店主の声が、Kの全身を縛り付けた。

身体が鉛のように重くなる。

彼の視界は急速にぼやけていった。

 

次に意識を取り戻した時、Kはガラスケースの中にいた。

埃をかぶった人形の姿で、懐中時計の隣に陳列されている。

外では、新しい客が店のドアを開ける音がした。

カランコロン。

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