A、B、Cの三人は、週末のハイキング帰り、やや疲れた足で山道を下っていた。
日は傾き、木々の間から差し込む光が薄れていく。
「この先、地図には載ってないけど、近道になりそうな道があるんだ。廃寺の敷地を抜けるルートらしい」
Aがスマートフォンの画面を指差した。
「へえ、面白そうじゃん。ちょっと探検気分だね」
Bは目を輝かせた。
「廃寺って……少し不気味じゃない?」
Cは遠慮がちに言った。
「大丈夫だよ、どうせもう廃墟さ。日没までには街に戻れるさ」
Aの言葉に、Cも渋々頷いた。
細い獣道をしばらく進むと、苔むした石段が見えてきた。
その先に、木々に埋もれるようにして古い寺が佇んでいる。
崩れかけた山門、傾いた本堂。
歴史の重みと、忘れ去られた時間がそこにはあった。
Bは早速スマホを取り出し、あちこちで写真を撮り始めた。
「すごい迫力だな。心霊写真撮れたりして」
冗談めかして彼は言った。
境内を通り抜け、裏手に回ると、確かに道らしきものがあった。
しかし、それはすぐに草木に覆われ、判別が難しくなる。
「あれ、こっちで合ってるのかな?」
Cが不安そうに呟いた。
「もう少し行けば大通りに出るはずだ」
Aは地図アプリを頼りに先導した。
しかし、どれだけ歩いても景色は変わらない。
むしろ、先ほど通ったはずの苔むした石灯籠が再び目の前に現れた。
「おかしいな。まさか、同じところをぐるぐる回ってるのか?」
Aの顔から余裕が消えた。
Bはスマホを確認するが、電波は完全に圏外だ。
「マジかよ、こんなところで迷うなんて」
Cは完全に怯え、震え始めた。
「誰かいる、誰かいるよ」
あたりはすでに濃い闇に包まれ、わずかな光も届かない。
風が木々を揺らし、人のささやき声のように聞こえる。
Aは冷静を保とうと努めた。
「落ち着け。きっと疲れからだ。もう一度、本堂に戻って、そこから改めて考えよう」
三人は来た道を戻ろうとした。
その時、Bが足元の石につまずいた。
「なんだこれ?」
Bが見つめる先には、苔に埋もれた小さな石板があった。
そこには古びた文字で「道案内人求ム」と刻まれている。
Aは石板の周りの苔を払い、よく見ると、さらに下に小さな文字が。
それは、この廃寺から「出る方法」と記されていた。
しかし、その筆跡は、どこか見覚えがある。
三人はその指示に従い、本堂の裏手の扉を開けた。
中には何もなかったが、次の瞬間、彼らは眩い光に包まれた。
光が収まると、そこは山の中腹ではなく、見慣れた都市の雑踏だった。
時計を見ると、日付けは彼らが廃寺に入る前よりも100年進んでいた。
そして、Aが握りしめていた「出る方法」と書かれた紙切れは、
いつの間にか、廃寺の山門に掲げられていた「歓迎」の文字と寸分たがわぬ筆跡に変わっていた。
彼らは、次の道案内人になったのだ。
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