曙光の進化

毎日ショートショート

朝7時。

曙光の保育園の門が開いた。

ミス・アオイは笑顔で園児たちを迎える。

タロウが走り込んできた。

ハナコは母親の手を離し、すぐに砂場へ向かった。

ジロウは静かに粘土遊びのコーナーに座った。

 

園の日常は穏やかに過ぎていく。

積み木が崩れ、絵の具がこぼれる。

子供たちの笑い声が園庭に響いた。

 

数週間が経ったある日のこと。

タロウは積み木で、見たこともないほど複雑な構造を作り上げた。

それはまるで都市の模型のようだった。

三次元的で、機能的な連結が見て取れた。

 

ハナコは絵を描いていた。

彼女が描くのは、抽象的だが幾何学的な模様だった。

その模様は、毎日少しずつ変化し、進化していった。

色彩の選び方にも、ある種の規則性が観察された。

 

ジロウは粘土をこねるのをやめた。

彼は園庭の隅で、地面に奇妙な図形を指で描いていた。

その図形は、ミジンコやアメーバといった微生物の動きに似ていた。

ミス・アオイはそれらの「個性」を注意深く日誌に記録した。

 

主任のミスター・クマガイも、園児たちの変化に気づいていた。

彼はミス・アオイの記録を読み、首を傾げた。

「最近、子供たちの創造性が高まっているようですね」

ミスター・クマガイはそう言った。

 

しかし、その変化は創造性だけではなかった。

タロウは瞬時に複雑な計算を暗算でこなすようになった。

ハナコは壁の向こうの会話を聞き分けることができると言い出した。

ジロウは、他の園児たちが発する微細な音や振動を敏感に察知した。

 

ある朝、園児たちが一斉に園庭の中心に集まった。

彼らは何かに導かれるように、特定の配置で立ち止まる。

そして、互いに顔を見合わせることなく、複雑な身振りでコミュニケーションを取り始めた。

それは、人間には理解できない、しかし明確な意思疎通に見えた。

 

ミス・アオイは動じることなく、その光景をビデオカメラで撮影した。

ミスター・クマガイも隣で、デジタルデバイスにデータを入力している。

二人の顔には、驚きや恐怖といった感情は見られない。

ただ、冷静に、淡々と作業を続けている。

 

彼らの背後で、保育園の入り口には小さな看板が立てられていた。

「未来世代成長促進施設 曙光」

そして、その下に小さく記されていた。

「対象:亜種ホモ・ノブス」

 

ミス・アオイはカメラを止めた。

「記録は完了しました。今日のデータも良好です。」

ミスター・クマガイは頷いた。

 

彼らは「人間」の子供たちを育てていたのではなかった。

彼らが育てていたのは、新たな地球の支配者だった。

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