村の奥深くに、忘れ去られた炉があった。
それは、村の開拓時代からそこにあったという。
誰も使わず、ただひっそりと、朽ちかけた石造りの構造物がそこにあった。
オキナとオババは、その炉の近くに小さな家を構えていた。
彼らは日々の糧を得るために畑を耕し、静かに暮らしていた。
老いには抗えず、二人の体は次第に弱っていった。
ある満月の夜、異常は起きた。
普段は物音ひとつ立てない炉から、微かな光が漏れ、低くうなるような音が聞こえてきたのだ。
「いったい、何だろうね」と、オババは首を傾げた。
好奇心に駆られたオキナは、ゆっくりと炉に近づいた。
炉の扉は、まるで招き入れるかのように、少しだけ開いていた。
中を覗くと、そこには不思議な空間が広がっていた。
炎はなく、ただ、光の渦が静かにうごめいている。
そして、時間の流れが完全に止まっているように見えた。
オキナは恐る恐る、手に持っていた小石を光の渦の中へと放り込んだ。
小石は、光の中で瞬時に形を変えた。
それは、この世のものとは思えないほど美しい、青い宝石になっていた。
オキナは目を疑った。
彼はその後、次々と様々なものを炉に投じてみた。
枯れた枝は、青々と茂る若木となり、濁った水は、清らかな泉に変わった。
炉は、あらゆるものをより良い形へと、瞬時に、しかし時間の流れを伴わずに変換するようだった。
二人はその力を使って、村に富をもたらした。
病に伏せる村人を炉に入れれば、彼らはたちまち健康を取り戻した。
しかし、変換された人々は、どこか遠い目をして、以前の記憶を曖昧にしか語らなかった。
やがて、オキナとオババは、自分たちの老いと向き合った。
彼らは永遠の若さを、不老不死を願うようになった。
「この炉は、私たちをもっと素晴らしいものに変えてくれるはずだ」
オキナはオババにそう言った。
「そうね。きっと、もっと強く、もっと美しく」とオババも頷いた。
二人は手を取り合い、光の渦巻く炉の中へと、ゆっくりと足を踏み入れた。
数日後、炉の扉は固く閉ざされたままだった。
村人たちが炉の周りに集まり、オキナとオババの帰りを待った。
しかし、二人が姿を現すことはなかった。
炉の中からは、あのうなるような音も、光も、何も聞こえなかった。
彼らは、種を超えて融合した。
一つの、脈動しない、しかし確かな時の塊となって、炉の底で静かに輝き続けている。
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