Kは、時間が指の間からすり抜けていくのを感じていた男だった。
彼は「時の淵劇場」に慰めを見出した。
それは古く、薄暗い場所で、いつもほとんど空だった。
彼は毎晩訪れ、古く、ざらついたフィルムを眺めた。
ある晩、彼は奇妙なことに気づいた。
スクリーンの中の登場人物がティーカップを持つ動作が、不自然なほど長く続いた。
遠くの客がグラスの氷を鳴らす音が、何分間も響き渡るように感じられた。
Kはまばたきをした。時計を確認する。
時計の秒針もまた、躊躇するようにゆっくりと進んでいた。
彼は数少ない他の客たちを見た。
彼らはスクリーンに視線を固定したまま、まるで一時停止されたかのように、微動だにせずに座っていた。
Kは映写室にうずくまる老いた映写技師Sに近づいた。
「あの、今日の映画、少し遅いですね」Kは尋ねた。
Sは薄く笑った。
「ええ。この劇場は、時々、ゆっくりと流れることがあるのです」
Sの言葉は、深い谷底から響くように、ゆっくりとKの耳に届いた。
Kは外に出た。
街の喧騒は、まるで倍速再生されているかのように感じられた。
人々はせわしなく動き、車は矢のように駆け抜ける。
Kは息苦しさを感じた。
翌晩、Kは再び劇場へ向かった。
やはり、中の時間は穏やかに、優雅に流れていた。
彼は持参した小さな手帳を開き、文字を書き始めた。
普段なら数分で終わるメモが、ここでは何時間もかけられた。
思考は深く、言葉は選りすぐられた。
Kは魅せられた。
彼は日々、劇場で過ごす時間を増やした。
やがて、彼は劇場に住み着いた。
わずかな食料と毛布を持ち込み、舞台裏の隅に隠れた。
日中も夜中も、彼は劇場の中にいた。
時間はほぼ止まっているようだった。
彼の髪は伸び、服は朽ちた。
しかし、彼の意識は研ぎ澄まされ、かつてないほどの充足感を味わった。
ある日、Kはふと立ち上がった。
劇場の外の世界がどうなっているのか、知りたくなった。
彼は重い扉に手をかけた。
扉はびくともしない。
Kは何度も押したが、開く気配はなかった。
Sのブースを見た。
Sは依然として同じ姿勢で座り、古い映写機をじっと見つめていた。
まるで彫像のようだ。
「Sさん!」Kは呼びかけた。
声は劇場の奥に吸い込まれ、響かなかった。
彼は劇場の中をさまよった。
他の客も、彼が初めて訪れた日のまま、凍りついたように座っていた。
彼らはもう、映画を見ていなかった。
ただ、そこにいた。
Kは理解した。
彼は時間を手に入れたのではない。
時間の中に封じ込められたのだ。
劇場は、彼が望んだ永遠を与えた。
それは静かな、そして永遠に続く牢獄だった。
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