毎日ショートショート 加速する待合室 アオキは病院の待合室にいた。予約時刻は午前十時。壁の古びた時計は、やけにゆっくりと動いているように見えた。隣の椅子には、ハヤシが新聞を広げている。その向かいでは、イシダが小さくうつむいていた。十時を五分過ぎた。まだ呼ばれない。アオキはもう一... 2025.07.29 毎日ショートショート
毎日ショートショート 記憶の結晶 アキラは窓辺にいた。昼の日差しが、埃の舞う室内に線を描く。寮の部屋は静かだった。ユウジが戻ってきた。「おや、まだぼんやりしてるのかい?」彼はそう言って、無造作にベッドに腰を下ろした。「さっき、食堂でキミがさ…」ユウジの声は滑らかだった。彼は... 2025.07.29 毎日ショートショート
毎日ショートショート 知識の駐輪場 朝7時。タナカは駅前の自動駐輪場に自転車を押し込んだ。いつものように満員御礼だ。前方のスペースが奇跡的に空いていた。ハンドルを切り、勢いよく突っ込む。カチャン、とロックされる音がした。その瞬間、頭の中に何かが「ズン」と入ってきた。一瞬のめま... 2025.07.25 毎日ショートショート
毎日ショートショート 価値ある眠り 深夜零時を回っていた。サトウ氏は、行きつけの美容院「ナイトヘアー」の椅子に座っていた。店内に客はサトウ氏一人。ハサミを動かすタナカ氏の音だけが、静かに響く。都会の喧騒から隔絶されたような、奇妙に落ち着く空間だった。疲労困憊のサトウ氏は、ここ... 2025.07.25 毎日ショートショート
毎日ショートショート 永遠の地下室 ヤマダ氏は毎朝、決まった時間に地下室へ降りる。そこは彼の趣味の部屋だった。古い時計の収集が日課である。ある日の朝。地下室の扉を開けた瞬間、彼は息をのんだ。いつになく濃い霧が、部屋いっぱいに立ち込めていたのだ。彼は懐中電灯を点けた。光が霧を掻... 2025.07.25 毎日ショートショート