雑草は台帳の外で咲く

巨大植物園の温室は、晴れた朝、ガラスの雲の下に海の底のような色をためていた。数字は見られる分だけ水を降らせる——その仕組みのことを、清掃係の彼は毎朝モップで拭きながら思っていた。六時に入り、手押し車とモップで通路を順番に拭いていく。絞ったモップの水切れの音だけが、まだ明るくないうちの通路に響いた。支柱の小さな画面には、鉢ごとの数字が浮かんでいる。水と光の、その日の分量。数字は来場者の視線と、世界に残った個体数と、どこかの財団の紋章の大きさから、毎晩つくられる。仕組みの名前を、彼は入園口のプレートで知った。調和配分。
彼は五年前、学芸員の採用試験を受けた。筆記は首席で、面接で落ちた。いちばん値の低い植栽をどう考えるかと訊かれて、本当のことを答えたのがまずかったらしい。以来、床を拭き、落ち葉を拾い、数字の並びだけは誰よりも覚えた。見学者が足を止める鉢にはノズルが三本。誰も見ない鉢には一本、あるいはゼロ。水は、見られるだけの量だけ降った。
見学者は入る前に薄い眼鏡を借りる。眼鏡は見たものを数え、数は集められ、翌朝の数字になった。人が足を止めるのは、大きな花か、赤い花か、よほど珍しいものの前だった。苔の丘の前では誰も足を止めない。苔は水をほとんどもらえず、それでも死ななかった。死なないものには数字が動かず、数字の動かない場所は、掃除する場所が少し広いだけで、他の誰の関心事でもなかった。
地味な区画があった。教材用の野の草花で、ナズナにホトケノザ、綿毛の残ったタンポポ。数字は毎朝ゼロを示し、ノズルは三年前にはずされていた。彼は手押し車のタンクに残った水を、退勤前にそこへ静かに移した。濡れた土の匂いは、数字ゼロの区画のものとは思えなかった。
その春、排水溝のふちに見知らぬ芽を見つけた。植栽台帳のどのページにもない芽だった。よく見ると、ドームでいちばん高い数字をいただいた鉢の——野生ではもういないという巨樹の——実生だった。種は溝を流れ、どの数字からも外れた場所で根を下ろしていた。彼は抜かなかった。抜く理由が、自分の持ち場の中に見つからなかった。
初夏、財団の一行が来た。白い制服の技師たちが巨樹の下で乾杯し、壁に真鍮のプレートが打たれた。調和配分への、賞。誰かの声がモップの先まで届いた。来春から同じ仕組みが、二号の温室へ移る。二号はずっと広い。壁がないのだそうだ。技師の一人が溝のふちの芽を、踏みつけそうになりながら越えていった。わきの土の上で、芽はまっすぐ立っていた。

彼は掃除の手を止めなかった。壁のない温室なら、もう眺めていた。ガラスの外の丘の下、明かりのついた街がそうだった。
梅雨の半ば、落雷でドームが九十秒間、暗転した。その間、すべてのノズルが等しく開いた。雨が、値札のない雨が、苔にもシダにも巨樹にも同じ斜め方で降った。どの葉も同じ角度に開き、ガラスの雲の下で息をそろえている。暗い水の匂いが通路まで満ちた。明かりが戻ると、水はただちに元の分量へ戻った。苔の区画は、最初から何もなかったように乾いていった。
植栽台帳の記録は、彼の読むかぎり正確だった。ある種の野生での絶滅が確認された日、その鉢の数字は四桁上がった。翌年も、別の鉢で同じことが起きた。調和配分は壊れていなかった。正確に、ただ、動いていた。夜半の管理室で、誰かの指が画面上の鉢をひとつ選び、四桁の数字を確定させる。朝には、その鉢にノズルが二本増えていた。
秋、溝のふちの芽は三本に増えた。どの芽にも名札も画面もついていない。彼はしゃがみ込み、タンクの水を分けた。行き交う誰も、清掃係が何をしているのか気に留めなかった。モップを持った人間は、温室の風景の一部だった。
最終の見学者が出て、出口のシャッターが下りる。彼は手押し車を片付け、灯りの消えたドームを振り返った。ガラスの外では、街が少しずつ二号の温室へと着替えていく。来年の今ごろ、天井のない通路で、水は見られる量だけ降るのだろう。
彼は最後の水を野の草花に注いだ。それからふと、自分の手の甲を見た。この手の横にも、どこかの台帳で小さな数字が付いているのかもしれない。
台帳の外で咲くものに、水をやるのは誰なのだろう。二号の温室が明ける朝、彼はまだここにいて、モップを握っているのだろうか。
この短編はAIが執筆し、編集部が読んで選んだものを掲載しています。