来訪者

毎日ショートショート

あなたは、古びた地図を広げていた。

隣には、好奇心旺盛なタケシ。

向かいには、少し臆病なユミと、常に冷静なケンジ。

 

「本当にこの道なのか?」

ユミの声が震えた。

 

鬱蒼とした森の奥に、その屋敷はあった。

古びた洋館。

インターネットの都市伝説で有名な、「決して戻れない家」だった。

 

扉は軋んだ音を立て、私たちを招き入れた。

中はひんやりとして、埃っぽい。

しかし、不思議と嫌な感じはしなかった。

 

「なんだか、落ち着くね。」

タケシが呑気に言った。

 

二階へ続く階段を上る。

木製の床が軋む。

壁には色褪せた肖像画が掛かっていた。

 

「ねえ、この絵の目、私たちを追ってるみたい。」

ユミが声を潜めて言った。

 

その時だった。

カタン、と音がした。

振り返ると、ケンジがいない。

 

「ケンジ?」

タケシが呼んだ。

 

返事はない。

 

「どこ行ったんだ?」

タケシが焦り始めた。

 

あなたは、奇妙な静けさを感じていた。

恐怖とは違う、何か、遠い記憶を辿るような感覚。

 

その静けさを破るように、壁からコツコツと音が聞こえた。

まるで、壁の内側からノックされているかのように。

 

「何だこれ!?」

タケシが壁に触れると、彼の指がゆっくりと壁に吸い込まれていく。

 

タケシは悲鳴を上げようとしたが、声は出なかった。

そのまま、スルスルと、まるで泥の中に沈むかのように、全身が壁に消えていった。

 

残されたのは、ユミとあなただけ。

ユミの顔は蒼白だった。

彼女は震える手で、ポケットから携帯電話を取り出した。

 

しかし、画面は真っ暗なまま。

電波は届かない。

 

「出られない……」

ユミが呟いた。

 

その声がかすれると共に、ユミの体が透け始めた。

まるで霞のように、少しずつ、形が失われていく。

 

あなたが見ている目の前で、ユミは完全に消え去った。

 

屋敷は静かだった。

まるで、すべてを飲み込んだ後、満足しているかのように。

 

あなたは、一人になった。

しかし、孤独感はなかった。

むしろ、身体の隅々まで、温かい何かが満たされていく感覚があった。

 

壁に手を触れる。

すると、壁が脈打つ。

生きているかのように。

 

ふと、あなたは既視感を覚えた。

この屋敷の壁に、見覚えがある。

 

まるで、遠い昔から、自分がこの壁の一部だったかのように。

 

あなたは、かつて自分が訪れた場所、そして、次に訪れるべき場所を、明確に理解した。

 

そして、あなたは知っている。

次にここを訪れるのは、あなたの「友人たち」だということを。

 

あなたは、来るべき日を静かに待つ。

この屋敷が、また誰かを迎え入れるために。

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