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5分で読めて、最後にひとひねり。毎日ひとつ、短編をお届けします

切ない

17 STORIES
失われたもの、言えなかったことを静かに描く短編。余韻の長い話を集めました。
切ない約4分で読める

湯けむりは、配当を知っていた

俺の仕事は、板前場の隅で皿を洗うことだ。仕込みの包丁の音、出汁の匂い、湯上がりの客の笑い声が壁を隔てて漏れてくる。この旅館は百二十年続いたが、三年前、大手の観光資本に買われた。看板はそのまま、…

2026.09.30 05:07 配信
切ない約4分で読める

誰にも再生されなかった歌の書庫

書庫の奥で、四十年間一度も貸出記録のない本が、夜になると微かに鳴る。それは音楽ではなかった。音楽になる前の、誰の耳にも届かなかった振動だった。

2026.09.30 03:10 配信
切ない約3分で読める

観覧車は静かに潮を見る

閉園まであと十日になった日、彼は駐車場のフェンスに新しい看板を取り付けた。『感謝の価格・本日の入場料・一円』。ここの入場料は三十年前からナスダック指数と連動していた。市場が跳ね上がれば入場料は…

2026.09.29 07:07 配信
切ない約4分で読める

星の点検は人類を待たない

深夜二時、天文台のドームは潮騒に似た低い音をたてていた。彼は震度のないゆれを、望遠鏡より先に受信していた。モニタにはAIが選んだ観測対象が並び、どれにも人名が付いていた。

2026.09.29 05:06 配信
切ない約4分で読める

最終夜、潮が九回を乞う

岬の灯台は、無人になる前夜だけ、人の体温を残すことにした。守人は点灯時刻を五分遅らせ、海の向こうで始まった夜の試合を、待ち受けた。誰かが打席に立つたび、岸の窓が一斉に明滅し、値段のついた歓声が…

2026.09.28 07:14 配信
切ない約3分で読める

通知の届かない花火

打ち上げ場の管制塔で、彼は毎晩、他人の感動を計算していた。AI「絢爛」は三百万のスマホから心拍と位置と支払い履歴を集め、その夜一番美しいとされる花火を、秒単位で選び出す。彼の仕事は、ただその計…

2026.09.27 19:03 配信
切ない約3分で読める

書庫の底で、海が止まる

気象庁の発表は、いつも二分遅れていた。警報が鳴ってから空を見上げると、雲は既に去り際だった。誰も気にしなかったが、書庫の彼だけは、その二分の遅れを毎日記録していた。

2026.09.27 07:02 配信