K氏、M氏、S氏、そしてあなたは、夕暮れの廃ホテルへと向かっていた。
黄金に染まるというその建物は、遠くから見ても異様な存在感を放っていた。
K氏は最新のカメラを首から下げ、すでに興奮気味だ。
「この光の色は、まさに幻覚だ」M氏が呟く。
S氏は無言で、ただその光景を見つめていた。
あなたもまた、その場の空気に静かに浸っていた。
ホテルの重い扉を押し開くと、内部は外とは異なる、薄暗く、しかしどこか金色の粒子が舞うような空間が広がっていた。
廃墟特有の湿った空気が、過去の物語を囁くようだった。
K氏がさっそくカメラを構える。
「まずは全体の雰囲気だ」
数枚撮った後、K氏が首を傾げた。
「おかしいな。あのロビー中央にあった、豪華なシャンデリアが写っていない」
M氏がK氏のカメラを覗き込む。
「確かに、そこだけが真っ白だ。光の反射か?」
S氏がシャンデリアのあった場所を指差す。
「でも、ここにちゃんとあるのに」
次にK氏は、壁にかかった、色褪せた肖像画にレンズを向けた。
「今度はどうだ?」
シャッター音。
K氏は再生ボタンを押した。
「まただ!肖像画の人物が、影のようにぼやけている。まるで存在しないかのように」
M氏とS氏も困惑した表情を浮かべた。
K氏はあなたに向かって言った。「じゃあ、あなたを撮ってみよう。そこに立ってくれるか?」
あなたは言われた通り、金色の光が差し込む窓辺に立った。
K氏がシャッターを切る。
結果は驚くべきものだった。
写真には、窓辺の景色だけが鮮明に写っており、あなたの姿は跡形もなく消えていた。
「まさか、あなたも写らないとは……」K氏が呟く。
その後も、ホテル内のいくつかのオブジェクトや、特定の場所に立つあなたが、写真に写らない現象が続いた。
K氏はふと、ある考えに取り憑かれた。
「試しに……」
K氏は、錆びた鏡に映る自分の姿にカメラを向けた。
シャッター。
その写真は、鏡のフレームだけを写し出し、そこに映るはずのK氏の顔は、空虚な空間と化していた。
K氏は静かにカメラを下ろした。
M氏とS氏が、遠くの部屋で「こんなものが」と何かを見つけてはしゃいでいる声が聞こえる。
あなたは、その二人の姿を静かに見つめた。
K氏はもう、そこにいない。
そしてあなたも、彼らには見えない存在だ。
黄金色の光は、全てを透過させるための、一種の優しい装置だったのだ。
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