夏の昼下がり。
アスファルトから蒸気が立ち上る。
コウダ氏は目的もなく街をさまよっていた。
「時の砂」と書かれた古びた看板が目に留まる。
骨董品店だった。
薄暗い店内はひんやりとして、外の熱気が嘘のようだった。
店主は白髪の老人で、奥の椅子に座り、微動だにしなかった。
店内に並ぶ品々は、どれも埃をかぶり、奇妙なオーラを放っていた。
コウダ氏は何とはなしに店内を巡った。
彼の目を引いたのは、店の奥、壁際に置かれた一台の古い扇風機だった。
金属製の羽は錆びつき、コードは裂けかかっている。
それでも、なぜか魅力を感じた。
「これは動きますか?」
コウダ氏は店主に尋ねた。
店主はゆっくりと首を動かし、無言で頷いた。
コウダ氏は扇風機を購入した。
家に持ち帰り、恐る恐るコンセントを差し込む。
スイッチを入れると、古びたモーターが呻き、羽がゆっくりと回り始めた。
最初はただの熱い風だった。
だが、数分後、風が奇妙に変わった。
特定の波長を持つかのように、肌にまとわりつく。
耳を澄ますと、風の中に微かな「声」が混じっていることに気づいた。
それは言葉にはならない、感情の塊のような音だった。
コウダ氏は扇風機の速度を調節した。
すると、風はより明瞭な「情報」を運び始めた。
隣人の秘密。
職場の同僚の不満。
遠い国の政治家の本音。
コウダ氏は驚愕した。
この扇風機は、異なる次元や時間の情報を、風に乗せて運んでくるのだ。
彼はこの能力を有効活用することにした。
ライバル会社の市場戦略。
上司の昇進にまつわる裏話。
将来の株価の動向。
扇風機から得た情報を元に、コウダ氏は着々と成果を上げた。
彼は出世し、富を築いた。
周囲は彼の成功を「天才的」と称した。
ある日、扇風機の風がいつも以上に強く、コウダ氏の耳元で囁いた。
「今日もたくさんのゴミが収集できました」
コウダ氏は全身に冷たい汗が流れるのを感じた。
扇風機が収集しているのは、彼が利用している「情報」ではなかった。
扇風機は、コウダ氏の「行動」こそを、別の次元に送り届けるためのものだったのだ。
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